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2014.10.19

【芝居】衝突と分裂、あるいは融合」(プレビュー) 時間堂

2014.10.12 16:00 [CoRich]

13日までtoiroan 十色庵。 そのあと、大阪、仙台、札幌、福岡を経て東京でもう一度上演が予定されています。100分。

祖母の葬式に集まった人々。祖父はかつて原子力発電の開発を行っていた。「日本を救った」と繰り返し云っているようだが、孫は初めて聞くというと、少し得意げに話し始めた。
商業原発の開発の研究所、不注意と事故から加熱した炉心を守るため放射性物質を大気中に放出したことがあったが、リーダーも、労働組合の男も、研究者一途な女も、研究のため、保身のため、この国のエネルギーを確保するため、それぞれの立場で、結局その事故を公表しないことに同意した。訪れていた教師も議員もそれを知っていたが公表には至らなかった。ひとり公表を主張していた男は研究所を去った。当時若かった祖父はそれにあらがえなかった。
あの時点で核分裂炉から核融合炉に研究の方針を変えていれば、311は起きなかったはずではないか、と祖父はずっと心の中で考えていた。もしそうしていたら。

ツアーメンバーとよばれるコアの役者たちが研究所の研究員や教師、議員といった原発開発をしていた昔の小さな事故をめぐる出来事を描き、その外側に地の文のような形で地域ごとの役者たちが喪服姿で311以降の現在と思われる葬儀のシーンを描くという構成。プロローグのような形で葬儀の一コマを見せた後、序盤から語られるのは原発開発の現場で起きたかも知れない事故。小規模とはいえ圧力の上昇と放射性物質を含んだ気体を大気に放出した、という事故の場面を描きます。更にもしかしたらあったかもしれない事故の隠蔽という出来事。311以降、水素爆発とかベントという言葉にすっかり詳しくなってしまったアタシたちには刺激的といえば刺激的、慣れてしまったといえば慣れてしまった言葉が並びます。 が、物語が描くのはその糾弾とかあるいは許しというものではありません。

中盤で描かれるのは、なぜ隠蔽したか、という人々のこと。あるものは研究が出来ることこそが最優先だし、あるものは雇用が確保されること、あるものはエネルギーの無い日本で暮らしを向上させていくために必要な手段として考えます。隠蔽をした人々には決して悪意はありません。彼らなりにそれぞれの正義を貫いた結果の結論としての隠蔽です。事故の公表こそが正義というのは正論だし、そう叫び続ける一人は居るのだけれど、彼はその場を去ることを余儀なくされるのです。

公表することが正義を貫くとどうなったのか、というのが後半で描かれます。エネルギーはなんとかしなければならないという前提で、20年研究を続ければできたかもしれない核融合による原発。事故を告発し、核分裂での原発開発を止め、核融合に注力するという選択肢。その結果は(もちろんifの話しではあるのだけれど)、核融合は出来ずエネルギー問題は解決できず。あるいは化石燃料に頼りづづける選択、再生エネルギーに傾倒する選択などさまざまの選択肢を並べて見せても、すくなくとも311前のあのバランスでエネルギーが供給できたのか、エネルギーが無い生活を受け入れられるのかということを含めて私たちに突きつけるのです。芝居見てるアタシには照明や空調やもうこれでもかとエネルギーを使いまくってるわけで、そこに対してじゃあ、要りません、とはなかなか言いづらいのです。

今作に問題があるとすれば、 この事故とそれに続く隠蔽の場面まだ生々しい現実として感じている私たちが、それをどう乗り越えて後半を冷静に見られるかが今作の評価を分けるように思われます。私もどちらかというと原発怖い、なタイプですから前半でやや冷静さを失いつつ見ていました。とりわけ前半に「エンゲキ」で原発の広報をというシーンが、その乗り越えるべきシーンの量を増やしていて、決してプラスに働いているとはおもえないのです。

この絶望の物語の中で終始軽くいる立場であるリーダを演じた鈴木浩司が重苦しくなるところを救う感じ。事故の公表を訴え続ける男を演じた菅野貴夫の正義感なキャラクタ造型。東北弁の研究者を演じた阿波屋鮎美はちょっと恋多きという感じでもあって可愛らしく、単に東北弁というだけでなく、エネルギーとの関わりということをきちんと語れるポジションで。研究至上を主張した研究者を演じた田嶋真弓はまっすぐどこか冷たい感じも凛としてカッコイイ。

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