【芝居】「世界は嘘で出来ている」ONEOR8
2014.10.23 19:30 [CoRich]
評判が良く、空席が目立つと教えてもらってきてみれば、夜公演とはいえベンチ席までぎっしり満員の平日。 110分。29日までスズナリ。
発見が遅れて腐敗した死体の片づけを担う特殊清掃会社の社長が請け負ったのは、自分の弟の死体の片づけだった。 嘘がつけない性格の兄と、子供の頃から学校も仕事もさぼりがちでその場しのぎの嘘ばかりついてきた弟は一緒に上京し、弟は最近では恋人と住むようになっていたが、その恋人が喧嘩をして出て行ったあとの一人の死だった。
正直者の兄と嘘つきな弟を軸に、子供の頃、上京前後、少し前の同居時代、分かれて住むようになってからの恋人との関係、恋人が出て行ってから、死体の片づけといった断片を時間軸をばらばらに、フラッシュバックさせて描きます。この兄弟と母親、それぞれの恋人といったわりとシリアスなこの物語の軸に対して、空気を読む気すらない若い作業者、子沢山で嫁の尻にしかれがちな畳屋、強面だけれど義理と人情に篤い工務店社長、この部屋の借り主である女に下心めいっぱいの大家など、コミカルで愛すべき、しかし卑近だったり小物感漂う造型の人々が周りを固めて緩急のリズムをきちんと作り出すのが見やすいのです。
兄を演じた甲本雅裕は、顔はわりと身体大きくて強面なのに、優しく、まじめというキャラクタがあっています。弟を演じた恩田隆一はさすがに看板、ずっと顔を歪めるような芝居が続くけれど、カーテンコールの笑顔に安心します。母親を演じた異儀田夏葉はたぶん年上の役者たちを子供、として演じるけれど、それに違和感がないのがなんか嬉しくなってしまうぐらいに、お母さんという造型。恋人を演じた浅野千鶴はちゃんとダメ男だって養っちゃうけれど、見切りをつけるタイミングが正しかったんだろうな、という理知的な雰囲気が印象に残ります。大家と母の恋人を演じた野本光一郎は気持ち悪さ、かっこわるさも二色に鮮やか。伊藤俊輔はきっちり笑いを取りつつ、いわゆる大人からみて苛つく造型が絶妙。劇団員の女優ふたり、和田ひろこ、冨田直美は客演に対して一歩引きつつ、恋人だったり有能な右腕に説得力。コミックリリーフ的な三人、山口森広、古屋治男、矢部太郎は結果としてそれぞれに物語の鍵だったり、兄のまわりの風景を補強します。
ネタバレ
弟のまわりの人々の風景をゆっくりと描いて、周りの人々にどう思われていたか、ということを定着させたあと、あれだけ働かなかった弟が働こうとしている、兄との電話で会社を辞めるというときの事情という地固め。嘘吐きばかりだと思っていた弟の真実が見える終盤近く。
あるいは 兄が母親に電話する、安心させるための嘘。大家も恋人も友達もいい人だったといい、苦しまずに死んだと伝えます。実は現実はそんなことはなくて、弟のまわりの人々が、弟を軽く扱ったりどこか内心バカにしていたり、あるいは付き合いづらいなと思っているということを丁寧に一つ一つ点描してきて、それを一気に回収するよう。兄の嘘はこの全員をくるりとひっくり返して気持ちいいほど。
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