【芝居】「ツナガル」セロリの会
2013.8.2 19:00 [CoRich]
3日まで「劇」小劇場。115分。
やや田舎にある個人の音楽教室。祖母も母もここでピアノや合唱を教えていた。
アルコール依存のためにそれまで別に暮らしていた父親も目処が立ち、一緒に暮らして近所の子供に絵を教えるようになる。が、娘は母のあまりに厳しいピアノの教育の挙げ句、突発性難聴を煩い、ここを出てピアノとは無縁の生活を送ってきた。
母親の具合が悪くなったと聞き、娘は恋人と共に久しぶりに戻ってきた。恋人は結婚も子供も欲しくて仕方ないが、結婚を受ける気にはなれない。それは、あの厳しい日々、愛されていたとはどうしても思えなくて、子供を愛することなどできないと思っていたからだった。
が、母親はかつてどういう人間だったかを調べることを提案されて、調べるうち。
トークショーによれば、最初想定していた祖母・母・娘三代にわたる物語を途中で大幅に書き換えたようです。三代の女たちは登場するものの、物語の中心は母と娘の愛情にまつわる物語に。 母親もピアニストで「お母さんのように世界に通用するピアニストに育てる」のが目標でそれを実現するための教育も投資も惜しまない母親像。絶対にピアニストにするのだという想いはあまりに強く、そして厳しくスパルタで。それゆえに母親に愛された、という記憶がない、だから恋人のプロポーズも受けられないというのが全体の枠組み。子供の頃に愛されなかったから子供を愛せないというフレームに対して、アルコール依存から身元を引き受けられ暮らすようになる父親というもう一つのフレームが重なります。 父親の造型は娘にはどこまでも優しく、が、それは脆い心の裏返しということゆえの崩壊。
菊池美里のちょっと子供シーンのいたずらっぽい雰囲気がちょっといい感じ。大人シーンの絶妙に普通な感じ、眼鏡姿も珍しい気がします。恋人を演じた尾方宣久は優しさと表裏一体の脆さのバランスをしっかりと。娘を演じた村田綾は少々陰鬱に過ぎる造型ではありますが、ほんとに美しい。母親を演じた勝平ともこ、役が少々一途に過ぎるところで難しいけれど、隠した想いという芯の強さに説得力があります。
ネタバレ
終盤に至り、父親と母親、娘の関係が明かされます。他人の娘をここまで育て上げる、という原動力は相当に必要なはずで、正直に云えば、天才的なピアニストである親友の娘だから自分には足りなかった才能を持っているだろう、という思い込みを持ってしても、彼女をそこまで突き動かす理由には少々物足りない感じがあります。天才の娘だからというのならもう一押しの使命感のようなもの、あるいは実は娘の父親の事が密かに好きでその娘というだけでも、いいかもしれませんが、 アルコール依存から回復基調の父親をも引き受けるというのも輪を掛けて相当の覚悟です。
もう一つ、時代を何処に設定しているかいまひとつわからないけれど、「アルコール依存」という言葉は確かに現代では正しい言葉だけれど、子供の頃から、(失礼ながら)少々田舎という設定の場所でアル中(百歩譲って慢性アルコール中毒)ではなく、アルコール依存と呼ぶという正確さにむしろ違和感が残ります。劇中の子供たちの時代をアタシの子供の頃に合わせちゃうからそう感じる、というだけかもしれませんが。
終幕、それまでプロポーズを頑なに断ってきた女が、プロポーズを受けるのではなく、 ひざまづき、男にプロポーズするシーンが凛々しく、かっこよくていいのです。
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