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2014.08.15

【芝居】「痕跡」KAKUTA

2014.8.9 14:00 [CoRich]

17日まで青山円形劇場のあと、北九州。140分。

10年前の大雨の中、車にはねられ川に落ちた後行方のわからなくなった子供のを一度はあきらめた母親。自分の余命が限られていることを知り、再び探すことを決意する。心配する義妹とドキュメンタリー映画作家ととともに、子供を最後に目撃した男が営む小さなバーの二階に住み込んで手がかりを探し始める。
その韓国料理屋で働く女たちは偽装結婚で戸籍を手に入れて生活をしている。近所のクリーニング屋の社長が気に入って出入りしている。社長の娘には同居している男が居るが、籍は入れていない。20歳になる息子もクリーニング屋で働いていて、連れて行かれた韓国料理屋の若い女に恋心を抱く。

戸籍や国籍の偽装、行方不明者と、それを探す人々。その人間は確かに存在しているのに、戸籍という紙切れの上では存在しないまま生きる人々だったり、実際の結婚生活はほぼ存在しないのに紙切れ一つでそれが存在することになっていたり。法律と現実の狭間で「人が存在する」というのはどういうことなのだろうと、考えるのです。

登場人物の無駄というか冗長さが少ないこと、あるいはそれぞれのロールがきちんと決まっていて見やすいことが逆に災いして 実際のところ、その行方不明はどうなった、というミステリ風の謎解きで見ようとしていても、それは早々にわかってしまう感じではあります。 が、それはあまり大きな問題ではなくて、そういう選択を善意のうちに、あるいはとっさの判断で選び取った人が人々が居て、その瞬間は些細なことだったかもしれないけれど、数日、数ヶ月、数年が経つうちに簡単には修正出来ないほどのおおごとになってしまう、ということを丁寧に群像劇として描くのです。

ネタバレ

戸籍には存在しない若い男と、偽装結婚で国籍を手に入れた中国人の若い女のシーンがやたらに好きなアタシです。ボニー&クライド (wikipedia 1, 2) みたいだね、というセリフもちょっと洒落ているけれど、なによりも、本当に「何も持ってない」のに、若さだけはある恋人たちが本当に眩しくて。それはその若さの渦中にいる若い作家には書けないはずなのです。 そこから距離を置いて若さが描けるようになった作家の成長(つまりは、歳を重ねたということ)を、本当に嬉しいと思うのです。演じた小田直輝はまっすぐだし、でも影も持っていて。多田香織は本当に可愛らしくて、若さが塊になったようで、ボニーっぽい造型にみえるのです。

子供を探す母親を演じた斉藤とも子は序盤でやつれた感じに見えたのがやけに心配だったのだけれど、イキイキとして、そしてどこか可憐さがあったりもする前向きな終盤が素敵。 クリーニング屋の社長を演じた辰巳智秋は、軽口を叩いて女の子大好きだという序盤も、後半での妹をどこまでも思いやる兄としての格好良さもじつにいいのです。妊婦を演じた異儀田夏葉は強く生きる母の姿が格好良く美しい。

9年前に青山円形に初登場した劇団、 もっといえば、20年前に初舞台を踏んだ作家(1994.11 「転校生」)の おそらくはこの劇場での最後の作品。青山円形劇場をちゃんと円形で使える劇団はそう多くはありません。彼ら自身も例外ではなくて、円形に作ったものの、初演ではあからさまに演出家席の場所がわかるような作り方でした。(再演では修正)。この劇場を完全円形で使いこなしたのは、最初から円形劇場をMOTHERの「ジャンキースクエア」や「プラシーボ・デパート」などALL AROUND MOTHERのシリーズぐらいではないかと思いますが、今作は完全円形に。 今作はごくシンプルに、舞台上に固定した装置を置かず、完全の円形舞台に四方向からの出捌け、テーブルやアイロン台などを素早く出し入れすることで、完全円形の舞台をきちんと作り出しています。とりわけ、クリーニング店の作業場のシーンは秀逸で、人々が動き回って仕事をしているという風景を、円形の舞台で廻りながら演じさせることで、作業場の雰囲気と観客からの視点の確保を両立させています。最後にこのシンプルな美しい舞台を作り上げた、ということが何より青山円形劇場、という場に対して真摯に向き合う彼らの心意気であり、それを実現する確かな力なのだな、と思うのです。

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