【芝居】「ダーリン!ダーリン!」ズッキュン娘
2014.8.17 18:00 [CoRich]
18日までシアター風姿花伝。120分。
そのパン屋は、かつて夫婦が脱サラして始め苦労の末つくりあげたメロンパンが評判になっていて毎日限定数が売り切れてしまう。夫とは死別してしまったが今は妻が一人でそのレシピを守っている。毎日夕方に買いに訪れるのにずっと変えなかった大学生の男は、ある日そのメロンパンを手に入れてその味に感動するあまり、親がしいた警察官僚へのレールも、同窓の恋人からも外れて、そのパン屋でアルバイトを始めてしまうどころか、店主に恋心を抱いてしまう。カッコイイ以外に何のとりえもない男をずっと支えてきた恋人はどうしてもそれに納得できず。
顔だけはいいけれどだらしないしバカだし、ダメ男だとわかっているけれど、惚れてしまった弱みだし彼は愛してくれているからさまざまに目をつぶって支えていこうと考えてきた女だけれど、男は他の女に惚れてしまいしかも敷かれていたレールにあるちゃんとした仕事だって放り出そうとしているという状況。当日パンフで作家は「失う怖さを教えてくれた」「殺したい程の憎しみを教えてくれた」「愛する歓びを教えてくれた」「今はもう、隣にいない彼」、わりと切実な言葉を並べて見せます。もちろん作家ですから芝居に描かれていることがどこまでが作家自身の実体験なのかなんてことは知る由も無いわけですが、それを表現せずにはいられない、という切実さから生まれたと感じる物語がわりと大好物なアタシです。冷静にかんがえれば相当イタいわけですが、作家たるものそれを表現してなんぼ、だとも思うのです。
とても切実で大切に紡いだ核となる物語は好きだとはっきり云えますが、 正直にいえば、公演全体を見渡すと少々厳しい気持ちにもなります。ダブルキャストで設定しているのでアタシの観てないAがどうだったかはわかりませんが、物語がそう変わらないのだとすると、たった11人の登場人物なのに、物語が必要としていない役が多すぎる気がします。人気のメロンパンの店に集う人々の日々にしても、キャンパスのあれこれにしても、あるいはキャバクラにしても、それぞれのシーンは華やかだけれど、それだけの時間を引っ張るほどには物語からは求められていなくてもっとぎゅっと濃密に、コンパクトに描いたものを見てみたいな、と思うのです。
もちろんそれは自分を棚に上げていえば、客席のある種の異様さ(それは必ずしも悪ではないけれど、アタシが求めてるそれではないということですが)をつくり出しつつも動員という意味では成功しているわけなので、そういうものだと割り切れば、アタシが行かなければ済むだけなのですが、それで切り捨ててしまうには惜しい何かが物語の核にはあるとおもうのです。
ダメ男だけれど惚れ込んでしまった自分の想いの持って行き場はどうしたらいいのだ、ということだったり、あるいは永遠なんてものは実はないのだ、という台詞は(少々陳腐な気はしつつも)切実さをもってキレッキレで精度は相当に高くて、印象的なシーンなのです。その渦中となる男を登場させないというのもちょっと巧いやりかただなぁと思います。
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