【芝居】「星の結び目」青☆組
2014.7.6 14:00 [CoRich]
時間堂への2011年書き下ろし作品の、青組としての初演。9日まで吉祥寺シアター。135分。
広い舞台に段をつけていくつかの小さなステージ。天井から青系の色で統一された淡い和風柄の布。風が通るような古い日本家屋の雰囲気。縁側がある。和服。広い舞台を生かして、日本家屋の和の雰囲気と、クールさが併存する空間をスタイリッシュかつ贅沢に作り出します。
確かにお屋敷も使用人も居るけれど、歴史ある重厚さではなくて一代目の優秀さゆえに成り上がった商家。そういう「贅沢」に暮らしている家族たち(YouTube)が手にしている今の暮らしを失うかも知れないという不安と、はしたなくはしたくないけれど生活は守りたいし金は必要だし。 そういう場所で生まれ育ってしまった家族が戸惑う物語。 青年団・ソウル市民( 1, 2, 3) にやや雰囲気が似ている気もします。 それはタッパが高くて広々とした舞台にどちらかというと硬質な印象の和風の装置で作られた中で演じられる家族とその外側の社会の物語という成り立ちがそう感じさせるのかも知れません。
もっとも、作家・吉田小夏が描き続けているのは、社会に軸足というよりは家族の中での女たちの物語で、今作もその例外ではありません。 金を手に入れるためだったり子を産むために、と役割を強制された時代を背景に、もちろん現代の感覚では納得なんかできないのだけれど。 多くの男たちは登場するけれど、どちらかというと女たちがそういう境遇になった背景、として(もちろん高い精度で)描かれています。 時間堂公演でそれをアタシは「男たちは薄っぺらい」と書いたけれど、それは女たちの濃密な描かれ方の対比故にそう感じたにすぎないのだ、ということだというのを再発見するのです。
舌足らずな喋り方とオーバーなリアクションで幼さなの印象が強く残る女中と、台詞はひとつもなく豪快だった先代に呼ばれて花見に来るぐらいのうつくしい女を二役で演じた小瀧万梨子はその振れ幅ゆえにお得感というか堪能できる感じで、特に前者は他の舞台では滅多に見られない役で新しい魅力。 普段の役柄印象が違うという意味では多根周作演じるかんしゃく持ちの長男というのも珍しい。役者としての活動を休むという意味で変化球気味なこの役はラストステージに相応しい王道というわけではないけれど、 触れたら崩れてしまいそうな脆い心を虚勢という仮面をかぶらなければならないという時代の長男像の説得力。振れ幅という点では荒井志郎が演じる、スマートで恰好がよい次男坊と豪快で一代で財をなした一代目を初演につづき二役で演じた荒井志郎も印象的で、アタシは特に一代目の造型が好きです。 一代目の商売の才覚というDNAを受け継いだのが次男だったということを明確に描くこの 配役も巧くはまっています。 教師となった娘を嫁に欲しいと金にあかせて手に入れようと考える男を演じた村上哲也は今作においてほぼヒールだけれど、その理不尽さをぶれることなく貫徹。語り部を兼ねつつ利発な女中とを演じた福寿奈央は物語の軸になり、しっかりと支えます。長女を演じた渋谷はるかは、この一家の豊かな時代からいわば落ちぶれていく時代までの背負った女、時代を追ってどこまでも幸せな前半、少々の虚勢で支えようと懸命な中盤、後半で消え入りたいと思うようなグラデーションが鮮やか。大西玲子は娘時代には今作の質感の中では少々違和感を感じないことはないのだけれど、その後、教師となってからのたたずまいがいい。
出演 荒井志郎、福寿奈央、藤川修二、大西玲子、小瀧万梨子(青年団)、渋谷はるか(文学座)、吉田久美(演劇集団円)、代田正彦(★☆北区AKTSTAGE)、多根周作(ハイリンド)、西村壮悟、村上哲也(Ort-d.d) 脚本 吉田小夏 -->
2011.12 時間堂 こまばアゴラ劇場 |
2014.7 青組 吉祥寺シアター |
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吉永甚五郎 | 鈴木浩司 | 多根周作 |
吉永君代 | 斉藤まりえ | 吉田久美 |
吉永静子 | 木下祐子 | 渋谷はるか |
吉永信雄・一代目甚五郎 | 荒井志郎 | ← |
吉永八重子 | 直江里美 | 大西玲子 |
榎本三郎 | 酒巻誉洋 | 西村荘吾 |
奥村梅子 | ヒザイミズキ | 福寿奈央 |
小池吹雪・小雪 | 窪田優 | 小瀧万梨子 |
小池桂吉 | 猿田モンキー | 藤川修二 |
上田辰男 | 菅野貴夫 | 代田正彦 |
山崎幸之助 | 山田宏平 | 村上哲也 |
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