【芝居】「妻らない極道たち」ホチキス
2014.6.7 14:00 [CoRich]
ホチキスの新作。10日まで吉祥寺シアター。120分。
先代が亡くなり妻が組長を継いだ任侠。先代が殺されそうになっていた女を助け出し、懇意にしているスナックにかくまったことから夫婦になり、先代が亡き後、困ってる人は放っておけない任侠の志を受け継いでいるが、組員はじり貧だし、対抗する組も伸してきている。
一周忌の日、そのスナックに集まる面々だが、この店が借金のカタに失われそうになると知り、インテリ組員は名前だけの団体を作り助成金をせしめることを提案するが、組長は「結婚相談所」を開くことを決める。縁遠い女が訪ねて来たがその日のうちに恋人ができるなど、評判になる。
外国語スクールの講師の女は、熱心に通う生徒の男の優しい言葉に大金をだまし取られてしまう。その女が登録された結婚相談所のデータを観た組員のアニキは一目惚れをするが、自分が任侠であることを言い出せず、それがばれてしまうと女の元を去る。
だまし取った男は結婚詐欺の常習で、結婚相談所を訪れ、これまで金持ちに囲われてばかりだった気位の高い女に紹介され、再び女から金をだまし取る。女は権藤組に対抗する暴力団の組長の愛人で、組の金に手を着けたのだった。ほどなくして詐欺師の男は捕らわれる。
外国語スクールの女は結婚相談所で相談をして、任侠の男を受け入れることを決める。
だました男とはいえ、命は救わなくてはいけないと考える任侠たちは、男を救うために、戦争になるのを覚悟で戦いを挑もうとするが、スナックは警官が取り囲み身動きがとれない。大切な人を守るために、組長は箒を手にする。
大きな劇場でも見劣りしないエンタメ路線。お芸術にいったりしないでひたすらわかりやすく、エンタメな路線を歩む彼ら。小劇場の領域でいわゆる評論家や好事家の評価は得づらい路線だし、この路線はそれこそやれそうでそう巧く水準を保てる劇団はじっさい、そう多くはありません。芸達者な役者たちときっちり挑戦を続ける作演が揃ってきちんと水準を保っている、というのはそれだけでたいしたもの。
ギャグを沢山おりまぜながらも、基本になるのは人を好きと思う気持ちだったり、あるいは人を助けることを喜びと感じる気持ちだったり。そういうある種の前向きが根底にあるから、どこか暖かい気持ちになるしエンタメとして気持ちよく仕上がると思うのです。
ミュージカルっぽく、いくつもの歌。どこか耳覚えのある感じを残しながらも基本的にはオリジナル曲で通したのはたいしたもの。著作権ゴロの大ヒット映画のタイトルをタイムリーにもじっ って「アナウンサーと雪の情報」と取り込んじゃうというのも巧い。
結婚、ということの女性の立場として「私はつまらない妻になる」ということを歌い上げるというのもちょっと凄い。そういう側面が今でもある、ということを女性自身がきちんと自覚する、という ことは(物語で語られるわけでは無いけれど)それを自覚して、その一歩先に進む女たちの姿を 作家が胸に秘めた上で物語を描いている、という感じがします。ギャグに隠れがちだけれど、そういう しっかりと、優しい視線があるのが作家の持ち味という気がします。これを甘口に過ぎると捉える向きも ありましょうが。
看板、小玉久仁子は濃いキャラだけれど心優しいヤクザの親分、しかも先代の妻という女性の側面を併せ持つというかならい無茶なオーダーを何の不安もなく。まさかの猫役、しかしワンシーンだけ実に格好いい男を演じた加藤敦はいや、ほんとにカッコイイ。結婚詐欺の男を演じた齋藤陽介あからさまにヒールで 救いようがないけれど、ころりと騙されちゃうある種の可愛さに説得力。 細野今日子・村上誠基を林家パー子・ペー風に仕立てるのは巧いくて、特に序盤、こういう場所に人が集まるということの暖かさの説得力。
それにしても、何もか万事休す、もう打つ手無し、という追い込まれる状況なら、もう箒で宙に浮くしかない、というのはファンタジーの王道で、気持ちがいいのです。
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