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2014.06.29

【芝居】「昭和十一年五月十八日の犯罪」鵺的

2014.6.22 14:30 [CoRich]

阿部定の事件を題材にした鵺的の「毒婦二景」と題した新作交互上演のBプロは、逮捕後の取調室でのワンシチュエーションで描く70分。23日まで、楽園。

定の逮捕は世間の耳目を集めて逮捕後の取り調べをする警察の前にも大勢の記者や野次馬が押し寄せる。本庁への移送が迫った日、取り調べは難航していて、どうして殺すに至ったかについて、刑事たちは腑に落ちない。
内務省から丁重に扱う指示が出て、それと前後して内務省からと名乗る役人が訪れる。

こちらも、仕上がりは喜劇です。取調室で行われたあれこれ。事件については、名前や待合い旅館の名前、あるいは資生堂で買い求めたカルモチンを30錠、あるいは殺す直前の「俺が眠る間、俺の首のまわりに腰紐を置いて、もう一度それで絞めてくれ、おまえが俺を絞め殺し始めるら、痛いから今度は止めてはいけない」というセリフ、あるいはその後に先生にあった、など 文献や史実(wikipedia)に基づいたものを置きながらも、一躍社会尾注目を集めるある種のスターの取り調べ現場で何が起こっていたか、ということは作家の想像力で作り上げたもの、と想像します。

作家が選びとったのは、二・二六事件(wikipedia)直後の不安定な世相、内務省が阿部定を利用して世間の耳目をそちらに逸らそうとした、という道でした。一部屋のワンシチュエーションで、外側で何が起きているかということを外挿するのは面白くてワクワクします。

そこにスパイスとして加えたのは、内務省を名乗る頭をおかしくした男の存在。あからさまに偉そうで、刑事たちも信じちゃうわりに、単に世間のスターに会いたいだけ、という無茶気持ちを、取調室まで入り込んでしまうという異物を加えることで圧巻の喜劇になるのです。演じたのは瀧川英次で、役人から単なる素人までの振り幅に加えて、頭おかしいわりに抑制が効いた、という造型がいい。

もう一つ、懐に持って手放さない局部を奪い取ろうと、刑事たちが定に襲いかかるシーンにははっとします。権力というか男が女に襲いかかる、ということ。今作での定は基本的には凛として強い女であり続けていますが、それだって、こうも羽交い締めにされ男が二人がかりで、という恐怖。それはAプロで語られた、15歳でで大学生に襲われたというおそらくは全ての出発点を象徴している、と感じます。 定を演じたハマカワフミエはずっと机の上に正座し続け、背筋をぴんと伸ばした姿が美しい。更に凄いのは、男たちに襲われてはぎ取られた着物を、5分程度できちんと自力で着付ける、という凄さ。着付けができるというだけではなくて、スピードが要求されるということはつまりある種の曲芸を隙無く。着付けた姿が正しいのか、美しくできているのか、ということは私は正直わからないけれど。

上役の刑事を演じた谷仲恵輔は内務省と名乗る男の存在に従うことも部下に対して威厳を持ち続けるということも、板挟みになる中間管理職の悲哀というか、その中でみせる余裕というか、カッコイイ。

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