【芝居】「乱歩の恋文~芝居小屋バージョン」てがみ座
2014.6.14 13:00 [CoRich]
アタシは初見です。15日まで出石永楽館。120分。14日は近畿最古の劇場のバックステージツアーも設定。
江戸川乱歩、いよいよ切羽詰まり原稿を落として姿を消す。妻は乱歩の足取りを追ううち、操り人形たちが大量に積まれた人形館浅草の人形館に足を踏み入れる。人形たちが動きだし、妻の思いでの出来事が繰り広げられる。妻の故郷の造船所勤務時代に知り合い、そのあとの手紙のやりとりの後、東京で兄弟が開いていた古本屋に転がり込み、結婚する。乱歩は海外の探偵小説に刺激を受けて本格推理小説を書き始めて出版されるが、世間の人気は怪奇性の高い通俗小説で評価されるようになる。連載の展開に苦しむようになり、姿を消してしまう。
江戸川乱歩の評伝、という骨格を持ちながらも、その外側に休筆し行方をくらませた乱歩を支え続けた妻がなかば白昼夢のように思い出したこれまで、という構造にしています。人形館の操り人形たちによって半ば怪奇めいて描き出される妻との出会い、結婚、小説の売れていく様、本格推理小説よりも世間が怪奇通俗小説に評価をしていくながれを描きます。元々は王子小劇場や世田谷パブリックシアターで上演された(未見)ものですが、出石永楽館という年月を経た空間を得て、時間という厚みを持つある種の怪しい空間をきっちりと作り出します。
人形館に紛れ込んだ妻が観たのは自分が経験してきたことの巻き戻しか。それを演じるのは人形たち、という体裁で、なるほど乱歩の怪奇モノっぽい感じ。演じる役者たちの手首や首、肩に糸(というよりはまあ、縮尺の都合でロープですが)というのは象徴的でちょっといいのです。
怪人二十面相という少年向きのいくつかの作品を除いて、 評伝としての乱歩もほとんど知らないアタシは、魅力的な役者たちによって演じられる評伝劇としても楽しめる一本にでもありました。今作の立ち位置は女性の立場からの、どこか連れないような描き方だけれど、それでも彼女が惹かれ、支え続けた乱歩という作家の人間くささも含めた魅力にあふれるのです。
もはや小劇場というよりはもう少し大きな商業演劇の香りすらする厚みのあるキャスト陣。 乱歩を演じた佐藤誓は、ついこの前までの別の本番のあとにこの芝居の凄さ。 ある種ワガママな作家というものの存在感。 それを支え、乱歩の失踪で人形館に紛れ込んでしまった妻を演じた石村みか、ときに力強く、しかし 一途に、あの恋文を支えに信じ続ける造型の厚み。 選んだ夫を全力で肯定する、というのは古い女の姿だけれど、 その妻の若き時代をやや素朴な造型で演じた福田温子を優しく見守る構図が実にいい。
劇作家大会2014豊岡大会ではワークショップや講演会に加えて多くの上演がされていますが、CoRichや劇団ホームページにこの公演を劇団自ら登録していたのはここだけだと思います。CoRichには劇作家協会が「劇作家大会」として登録はしていますが、それぞれのイベントは独立な公演なのだし、後々に残るデータベースとしてはそれぞれの公演で残したいところ。それは劇作家大会の事務局よりは劇団の領域だと思います。そういう意味でちゃんと自身の手によって公演登録がなされているてがみ座は、制作という観点でもしっかりしているな、と一歩秀でた印象です。
土曜日のイベントに設定された舞台芸術家のトークショー、バックステージツアー、大向こう体験は実に盛りだくさんに過ぎた印象。トークショーはここでなくても独立してどこかで聴きたいような美術から見た舞台の構図、というような話。大向こう体験は、体験というよりは大向こうとはなんぞや、ということと、この劇場で上演された歌舞伎の上映(にあわせて大向こうの体験、という手はずだったとは思いますが)だけになってしまった感じ。ワークショップ的なことを想像していたアタシはやや肩すかし。バックステージツアーは、若い館長(YouTube)の説明が実に小気味よく、しかもシャトルバス客の優先をお願いするなど、心配りがちゃんとしていて、もてなされた、という気持ちで心地いいのです。
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