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2014.06.30

【芝居】「臭う女(黒)~におうひとノワール~」野の上

2014.6.22 18:00 [CoRich]

弘前劇場時代の若手公演を野の上名義で再演した2010年(1)作を、改訂再演。90分。 23日まで、こまばアゴラ劇場。

タバコ農家の庭先に集まる近所の主婦たち。それぞれの事情を抱えていてカネが必要となった女たちに声をかけて手伝ってもらっている。廃作勧告が増えタバコで生計を立てていくのも難しくなってきていて、彼女たちが密かに育てているのは大麻だった。売人が現れて、 役所に大麻栽培の正式な許可のとりかたを問い合わせしたヤツは誰だ、と詰め寄る。 元々は主宰の津軽弁を大きな武器とする劇団で、前回の上演では津軽地方のニンニク農家を舞台に子供が減り消滅を匂わせるコミュニティと、しかしその中で強く生きる女たち、あるいは中国からの留学生や農協との関係でがんじがらめになっている状況をこれでもか、と詰め込んだ一本でした。今作は舞台を作演の出身地である(津軽とは敵対する土地柄でもある)青森県南部地方を舞台に設定し、ニンニクからタバコ・大麻を作っている女たちという設定に変更。 実際のところ物語は大幅に変わっていて、大麻の栽培と密かに行う女たちの生活はそこそこに潤っていたり、あるいはその買い手のあからさまに裏社会の男が現れたり、果ては派手なガンアクションまであったりしてやけにハードボイルドでアバンギャルドな感じの仕上がりに。

南部にとって津軽を殊更にディスるというのも舞台設定の変更で現れた新たな効果。まあ、県の単位と昔からの生活圏文化圏の違いによるある種の仲悪さというのはたとえばこの前までアタシが暮らしていた長野県の長野市と松本市の関係みたいなもの。津軽大学の学生だというと敵対心をあらわにするのに秋田出身だというと急に仲間意識になってみたりという豹変が絶妙で面白い。

南部に限らないようですが青森を舞台にして、大麻を取り上げるというのもきっちり地方を描く要素の一つです。農作物の育たない寒冷地ゆえに綿花が栽培できないために繊維原料としての大麻栽培が 行われていた土地だったということを劇中で語る ことさらに社会派、という描き方ではないけれど、JTやJAと農家の関係やTPPに少しだけ言及する中盤。補助金漬けになってしまっていてがんじがらめになって抜け出せないというのは、「お母さん」と呼ばれる女が麻薬漬けになっていることに象徴的に投影されているように思います。 大麻栽培というまさに「劇薬」はそのJAの支配や、あるいは苦しい生活から一歩逃れ自立しよう、 という女たちの力強い姿、その売人との関係からも自由になろうという大麻栽培免許への 一歩が悲劇を生む、という悲しいがんじがらめな絶望。

という物語だと読み解くのだけれど、舞台は少なくとも中盤まではコミカルな印象が強い仕上がり。それぞれの生活の苦しさだって笑い飛ばしちゃうような女たちのチカラ強さを描くのに、南部弁という方言 が果たしている役割も多いと思います。

津軽弁で圧巻をみせてきた乗田夏子は南部弁で苦労したとはいいながら、実際の処県外の私にはどこがどう違うかはわからず、いつもどおりのパワフルを。おばちゃんたちを演じた藤本一喜も沼山真紀子も、それぞれの事情を背負った女たちをきっちり。前回の上演では中国人留学生だった三上晴佳は、不倫の果てに 出戻ってきた影のある女(だけど最年少)もまた新たな魅力。大学生を演じた赤刎千久子のぶりっぶりの造型だけれど、「意識の高い」若者っぽさな鼻につく造型がちょっと凄くて、翻弄されるけれど惚れちゃってる男を演じる高岡秀伍とのコントラストがいい。売人を演じた葛西大志は強面なのに実に人間っぽい感じが魅力的、山田百次は使いっ走りな体温の低い若者っぽさの説得力。

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