【芝居】「言うなればゲシュタルト崩壊」MCR
2014.6.7 19:00 [CoRich]
8日まで駅前劇場。1h35。
男は、恋人のことは好きだが、一番だ、ということがわからなくなり、それを正直に伝えると恋人は心底混乱する。
その男が勤め先の新人バイトは、いままで怖いと思ったことがなくて、それは想像するということができないからだという。職場のアイドル的な女のことをスケベだと言い切る。
物語の核となるのは、恋人の二人。 好きだということはわかるが、好きすぎて、あるいはずっと考えすぎてその理由とか、好きがどういうことかとかという理由がわからなくなる瞬間をゲシュタルト崩壊になぞります。それが不安になる自分大好きな女とのあれこれ。恋人同士は特別な存在であるという、おそらく誰もが信じて疑わない一点が揺るぐということの着想の面白さ。わからなくなる男はあくまでも恋人に対して真摯に向き合い、自分はそれを特別な存在であることが考えすぎてわからなくなるし、それを聞かされた恋人の不安は、微妙にずれていて、愛されていないかもしれない、たまたま選ばれただけで、常にえらびとられるわけではないかもしれないという不安は、自分の身を、気持ちという点でどう守るかという点に向かうのもまた、実に丁寧な描き方で人物を造型するのです。
この核の物語、手を変え品を変え、笑いも起こしつつ描くけれど、じっさいのところ、ずっと同じことを描いているという感じ。もやもやとよくわからない核心は直接描けなくて、うろうろと周囲からいろんな角度で描くという感じですが、作家に何かあったのだろうか、なんて考えてしまう感じでもあるし、それを鬱々と考えることがゲシュタルト崩壊を起こす感じでもあって面白いのです。
その不安を、「ほかの人々とすべてがフラットになった並べられた時に、一粒の砂のように自分を選び取ってくれる、私のストロングポイント」を知ればその不安が解消されるという女のロジックを茶化すように描くけれど、ワタシにはそれが作家が女を可愛らしく感じてやまない、という描き方に感じられれて面白い。男を演じた西山聡はあくまで真面目に大汗かいてという人物をきっちり。女を演じた金沢涼恵はしかし自分のことに精一杯なある種の幼さをどこまでも可愛らしくきっちりと。 このワンテーマでは少々不安になったのかどうか、職場の人々の物語だったり、元のバンドの仲間たちとを描くのだけれど、正直にいえば、前者は核となる物語に対してあまりに繋がりが薄くて、そういう人々がいる、という人物スケッチのショーケースという感じ。 後者は男の自分探しな素性を補強はするものの、あまり効果的ではない感じでもあるのが惜しいのです。
もちろん面白くないということではなくて、人々をみて描く鋭さ、あるいはある種の優しさのようなものが隅々まで行き届いた人物造型は作家のまさに「ストロングポイント」で、それを繊細にしかし爆笑を伴いながら作り上げる芸達者な役者たちのガチンコ勝負っぽくもあって楽しいのです。 想像することができないから、怖いという感情がわからない男を演じた熊野善啓の平板なのにちゃんと生きてる人間を描くことだったり、 職場のアイドルのはずなのに、スケベな本性が徐々に見え隠れする女を演じた後藤飛鳥のぞくっとするような色気、終幕の一言なんか絶品で。手相を見る女を演じたザンヨウコは、ちやほやされる若い女ではなくて、まあオバサンの領域に足を踏み入れるけれど、どこかチャーミングで人好きで、という積み重ねるものの味わいを繊細に。なかなかできるものではありません。
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