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2014.06.22

【芝居】「Butterfly」qui-co.

2014.6.13 16:00

7月の東京公演となる「紙の左手」[Corich] のワーク・イン・プログレスだけれど、それとはタイトルも役者も異なる別バージョン。13日の一回のみ。 120分、城崎国際アートセンター/ホール。

老舗の葬儀会社。派遣会社からのメンバーも混じっている。もうやめる男がずっと片思いしていた女と同じ現場に配置されて舞い上がっているが、その現場で、霊柩車の手配を忘れていることが判明する。時間を稼ぐために坊主の頭をスリッパで叩く、という無茶な指示で現場は混乱する。
一段落付いたかと思った夜、葬儀社の電話が鳴り続ける。男ばかりが次々と死んでいる。もうこれが最後かも知れないと考えた男たち女たち。

大きなホールで常設座席と舞台の間が広くあいているため、張り出すような形にいすを並べて。告知は公開稽古WIPとしてあったので、ここまでしっかり上演ということになると思わず、そういう意味ではうれしい誤算。

老舗の葬儀社の人々、香典泥棒とおぼしき人物が現れたり、手配の段取りがされておらず混乱だったり、その下地としての仕事場と淡い恋心、という種でものがたりは始まります。やがて、社員たちと派遣という立場の違いは少し度を超して、暴力が常態化している場に。キコはこういう暴力と男らしさみたいな話がことさらに強調される印象があって、正直にいって少々苦手な感じではあるのですが、今作においては、それは人物のパワーバランスとキャラクタ設定にすぎず、物語の中心ではありません。

この町にかつて戦時中に謎の研究施設がおかれていたことを匂わせ、カマキリの交尾の最中に雄は雌に食べられてしまうことが象徴的に語られる中盤から、物語は大きく違う方向に舵を切り、不穏さを増していきます。男ばかりの葬儀の依頼の電話が鳴り止まなくなり、(「繁忙期」という言葉をここに使うのがちょっとおもしろい。そりゃそうか、あるか、繁忙期)どうも何かわからない理由で、性交中の男ばかりがどんどん死んでいるということが明らかになります。いわゆる腹上死だと半笑いな感じだった社員たちが自分たちに次のセックスが人生最後になる、ということがわかってくる中盤のどきどきする感じ。

それがもう一段、性交に至らなけれ、欲情している女が死ぬ、という一ひねりがおもしろい。キスを象徴的に使うことができるのもマル。惹かれあう気持ちまでは持ったとしても、もう一歩距離を縮めて近づくか、というのが駆け引きのようでもあって、若いときの初めてキスする、はじめてする、という時の未知の体験を恐れながらもでも惚れてしまう感覚がよみがえるよう。それは終盤に至りどんどんと、ロマンティックさを増して、惹かれあう男女の物語に着地するのです。

正直にいうと、男の葬儀依頼ばかりということはいえて、それがみな性交中ということは示されても、セックスすれば必ず死ぬことの証明にはならないとか、途中で人類の希望のごとくいわれる、次の葬儀依頼が女ならば、望みはある、ということはいや、別に今回の異常事態とは別に女だって死ぬだろとか、あるいは性交で100%男が死ぬなら双子が生まれない限り人類破滅だろうとか、運命とか逃げ場のなさを補強しようとしている脇のものがたりが必ずしもうまく機能してないという感じがあってそれは惜しいところなんですが。

暴力の常態化した現場だけれど、追いつめられた男女のあがきにも似た、惹かれあう気持ちというのはちょっとぐっとくる感じで、キコの中ではいちばんおもしろかったな、という印象なのです。

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