【芝居】「昭和レストレイション」パラドックス定数
2014.5.18 15:00 [CoRich]
25日まで三鷹市芸術文化センター星のホール。
雪の夜、首相官邸を襲撃した陸軍下士官たち。逃げる首相と警護の警官だったが、追い詰められる。銃弾に倒れ男を確認し、乾杯の声が官邸に響く。が、蜂の巣になったはずの男たち、何事も無かったかのように起き上がる。
撃たれてるのになぜか生き返る、という一つの、しかし大きな嘘というかファンタジーを紛れ込ませて。二・二六事件という史実の首相官邸襲撃で、首相と勘違いされて撃たれた義兄の秘書を巡る物語に紛れ込ませます。物語の軸となるのは 警察と反乱軍、あるいは若者と中年というどこか対立する立場だけれど、熱い時代を背景に共有して、同じ時代に生きる男たち。わかりあえそうな一瞬もあるけれど、決して越えられない一線を挟んだ男たちの熱い物語が主軸。襲撃、殺害となれば当然この二者が対話をすることはないのだけれどこの一点のファンタジーが時空をねじ曲げるかのように、この二者に対話という場を作り出すのが面白い。 農村の疲弊や若者の怒りが事件の引き金になりつつも、多くは上官にしたがっただけということはこの事件に対する目新しい視点ではないけれど、二者が対話するという構造のおかげで、この少ない人数でその構図を鮮やかに描き出すのです。 史実の隙間に作家の想像力をねじ込ませる作家の得意技が存分に生かされます。
もっとも、このたった一つの「ファンタジー」の破壊力はかなり大きくて、 結果、まるでドリフターズの「志村うしろ」かのごとくな大爆笑編の体裁で物語は進みます。それに逆らわずに物語をすすめて落ち着かせ、後半できっちり男たちの物語に着地させるのは確かな力。 二・二六事件を扱ってるのにまさかの爆笑の連続なのだけれど、ことさらに笑わせる要素を詰め込んでいくというよりは、この一点のファンタジーをめぐる戸惑いが笑いを誘うという感じがします。
絵描きのどこか腰の引けた兵士を演じた西原誠吾の見通す感じ、首相を演じた生津徹はどこか人を食ったよう。優しさを持つ中尉を演じた植村宏司、実直な少尉を演じた井内勇希もいいし、どこかあひるなんちゃら風なコミカルを併せ持ちつつ木訥さもみせる堀靖明、歳を重ねた落ち着きをもった近藤芳正、どこか 軽い感じもまたいい小野ゆたか。
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