【芝居】「赤い下着、覗くその向こう側、赤の歪み」キ上の空論
2014.5.11 16:00 [CoRich]
21日まで新宿眼科画廊。85分 。
好意を寄せている別の女が居るのに意に介さず、ずっと女の赤い下着の匂いをかぎ続けている男。
男のかつての恋人は天涯孤独な風俗嬢でちょっと闇があるこの女は神戸の生まれだがもう長いこと行っていない。
二人は突然の旅行に、神戸行きの夜行バスを選ぶ。
妹は音楽の道に進むため、神戸の大学に行くはずだった。
友達との行き違いから夜行バスに乗ることになった。
バスは定刻通りに発車し、車内が消灯されたあと、運転手の居眠りから事故がおこる。
久し振りな新宿眼下画廊の1F奥、ほぼ空っぽの空間に丸椅子がたくさん。並べ替え、あるいは背中合わせに座ったりすることで、舞台に別々の空間を並べて出現させたり、同じく浮かんの中に二つの場面を重ね合わせたり。細かな断片をリフレインして一見するとランダムに並べます。執拗ともいえるリピートはなるほど、自分の頭の中であの風景を繰り返し思い浮かべる感じ、男女や肉親のことであればなおさらです。 リピートの芝居がわりと苦手な私ですが、一つ一つのリフレインの単位が細かいこと、複数を並べ替えたり並行してみせたりすること、主に女優の色っぽい風体もあいまって、飽きずに見られるのです。
徐々に浮かび上がるのは、死んだ風俗嬢、その下着をかぎ続ける男、その男のことを想い続ける女を物語の核にしつ、(おそらくは新宿発の)神戸行き夜行高速バスの事故という特異点で人生が変わってしまった人々や、亡くなった人を想い続ける友人たちの姿。もちろん故人たちとの関係も丁寧に描きます。終幕に至り、それが単に運転手の過失ではなくて、謀られたものだ、というのもジワジワとクるのです。
新宿という場所での上映にあっている気がするのは、風俗嬢たちの友情の物語だったり、夜行高速バスのターミナルとういう場所を描いているということだと思います。ほかの場所ではここまでのフィット感は得られないのではないか、と思います。もっとも、この芝居を見た直後に高速バスで松本に戻るアタシにはまた別の意味の怖さがじわじわ来たりしたのも、また一興だったりもするわけですがまあ、隣に恋人が座るなんてこともなく、ですが(泣)。
正直に云えば、風俗嬢と男、その片思いのセフレという核に対して神戸の大学に進学する妹と兄の物語はどうしてもサイドストーリーでしかない構造で、山田と名乗る男に対しての因縁をもってしても、傍線という感じが残るのは惜しい気はします。
なにより物語の核になるのは死んだ風俗嬢を演じた石井舞。空を見上げているような序盤の立ち姿の美しさから、風俗嬢が地味な男に惚れたというファンタジー、終幕で見せるまた別の顔という振り幅を、濃密な色っぽさと繊細さできっちりと。その友人の風俗嬢を、ジャケットに短パンというアンバランスに色っぽい風体もいいし、演じた橘知里渡辺実希のやや幼さを残すようなかわいらしさもいい。
ボーダーの子持ちの風俗嬢を演じた渡辺実希橘知里の、亡くなった友人を表面的には嫌いつつ、信頼できる友と思っている感じも格好いい。
コミカルリリーフっぽい立ち位置だけれど、妹への想いを強く感じさせる兄を演じた石井勇気、その想いを受けて、友人と兄へのプレゼントを探す妹を演じた三浦真由の可愛らしさ。
下着を嗅ぎ続ける男を演じた柴田淳の風体はうだつが上がらないけれど、それでもこんなモテがある、というのは確かにファンタジー。彼を愛し続ける女を演じた酒井桃子はあまりに一途で切なくて登場人物に惚れてしまうあたしです。
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コメント
橘さんと渡辺さんの役、逆ですよ。
投稿: 桂木 | 2014.05.22 21:39
桂木さん、ご指摘ありがとうございます。お恥ずかしい..
本文を修正しました。
投稿: かわひら | 2014.05.26 20:55