【芝居】「エレクトリックおばあちゃん」渡辺源四郎商店
2014.5.3 19:00 [CoRich]
ナベゲンの新作は、ザ・スパイダースの同名の曲が結構耳に残る70分。6日までザ・スズナリ。
電力の供給が止まったとき、おばあちゃんは指先にもった電球に明かりを点した。おばあちゃんのパワーはぐんぐん上がり掃除機も電子レンジも動くようになり、さらには近所にも青森県にも。息子は大きな会社で働いていて自慢だけれど、嫁とはいまいち仲良く出来ない。
病院では地震のあと電力の供給が止まりながらも懸命に働く医師たち。避難勧告が出て病院からみんなで避難することを決めるが、寝たきりの老女は置いていくことにする。
おばあちゃんが最初は電球ひとつから、家まるごと、町、県、日本国中の電力まで供給しちゃうようになるというファンタジーをコミカルな起点に。もっとも、電圧と電力(電流)の扱いがごっちゃだったりするのは、まあご愛敬。
立ち入り禁止区域となる原発を巡る問題を組み合わせ、嫁姑のなじめない関係だったり、
リスク無しに発電可能という利益を目論む電力会社やら、あからさまに怪しい宗教やらをまぶして、
ぎゅっと詰め込んだ物語は見応えがあります。
物語のつくりとしては、 ひとりの老女を中心にして現実と夢想が裏と表、という感じで並行して描かれます。 それは電気を供給できる「エレクトリックおばあちゃん」という、おそらくは目を覚まさないまま夢想する老女の見ている世界と、寝たきりで多くの管や機械が繋がれたまま知り合いが訪ねてくることもない老女を置いて避難していくしかないという現実の世界、というコントラスト。 若い介護職員を電気屋の若い男がボーイフレンドとしてみたり、電力会社に勤める息子は特攻のごとく原発の作業にかり出されているのが、社長じきじきにとりたてられたりと、暗い現実にすこしばか リンクした底抜けに明るい夢という振り幅でみせることで、いっそう老女の置かれている現実の救われなさを際だたせるのです。
貯蔵施設の問題も含めて原発を切実な問題として抱える青森の話ではありますが、戯曲に記された「演技者が日常使用してる口語に翻訳される」という指定の意味は今作では大きな意味を持ちます。 長野県でも、神奈川県でも東京でも、現在の原発とのかかわりかたの現実はどうであれ、 故郷を失ってしまうかもしれないということだったり、あるいは 自分は意識のないままに機械に繋がれて生かされていくかもしれない、という想像力は失わずにいたい、と強く思わされるのです。
津軽弁をはなす可愛らしいお婆ちゃんを演じた三上晴佳は圧倒的な存在感。中央に居続けるポジションをしっかりと演じきって代表作といってもいい一本に。 意地の悪い嫁を演じた工藤由佳子は圧倒的なヒール感で物語に嫌な空気をもちこむほぼ唯一の役をきっちり。終盤、母親を演じる奥崎愛野は美しく凛として見とれるよう。若い電気屋でおばあちゃんのボーイフレンドを演じた工藤良平は優しい男の子、の造型がちょっと可愛らしい。
当日パンフによれば、青森市の拠点だったアトリエグリーンパークはオーナーが変わって1月末で契約が終了し、新しい本拠地を求めているとのこと。あの場所が立ち上がったころから通い詰める(というほどではないけれど)アタシとしては、実に寂しくて。地方の劇団がああいう拠点を持つということが、どれだけの力になるか、ということを東京に居たとしても感じ取れる数少ない実例だったわけで、新しい拠点ができることを切実に願うのです。
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