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2014.05.14

【芝居】「フサエ、100歳まであと3年」小松台東

2014.5.10 14:00 [CoRich]

宮崎弁で演じられることを特徴とする「こまつだいひがし」の新作。 13日までOFF OFFシアター。100分。

宮崎の施設に入ってる祖母の処に東京から孫の男が顔を見せに来る。介護に通うのは母親。孫は言葉多くは語らず、日当たりのいいチェアがお気に入りの場所だ。結婚して横浜に住む姉も顔を出す。夫についてドバイに行くことになるので、仲は良くないけれど姉弟を母親が呼んだのだ。 施設には牧師の女が訪れている、スタッフの男は元はやんちゃだったけれど、今は彼女とつきあっている。が、スタッフは元暴走族で恋人だったのに突然福岡に引っ越した女に再会して好意が蘇る。

子供の年齢がそれなりになっていても、子供の頃の枠組みのままだった家族の姿が、それまでは圧倒的に頼れる存在だった親だって、離れているとはいえ娘がそれなり横浜に居るとか、何かのバランスの上でやっとこさ、だったものが、自分の母親の介護が始まり、娘が外国に行き、人生で初の骨折を経験して、何かにすがりたい、と思う気持ち。 娘は遠くに行ってしまうから頼るのは東京で頑張ってるけれど、35にもなって独りものでアルバイトしかしてない息子でも頼ろうと云う気持ち。母親が骨折して急激に弱気になっていく、というのもやけに説得力があります。アタシだっていまのところは会社員だけれど、いつアルバイトになってもおかしくない昨今だし独り者だし、自分に引き寄せて、親だって歳を取る、ということを実感します。

小劇場における宗教の扱いはたいていのばあいエキセントリックに怪しいものだったり、あるいはフォークロアな地域のものとしての一環という扱いのものが多いのですが、今作で扱われる教会の扱いは、 少し違っていてもっと生活に根ざしている感じで新鮮です。それを心の頼りにして日常としている人がそれなりの数で居る、という姿。キリスト教という選択は成功していて九州な感じもあるし、単なるフォークロアとは違うほんの少し新しいものというのが絶妙。 これはまた、母親が娘や息子を頼りに思うのと同じように、何か日常ですがっていくもの、として象徴的に描かれているともいえます。

ヤンキー的なありかた、という序盤のスタッフの造型は流行の「ヤンキー経済」とか「マイルドヤンキー」という字面として捉えたものとはちがう説得力があります。 地元から出ないでそれなりに充実した日々を過ごしているというのは、それっぽくて、今の日本の姿を描きます。東京という場所しか見えていない作家には決して書けないリアリティなのです。もちろん持ち味のコミカルに楽しい描き方もわりと好き。それとつきあっている女が牧師というのもコミュニティのミニマムな感じがよくでています。

母親を演じた山像かおりはあくまでナチュラルに母親でありつづけていて、前半の頼れる力強さと、後半での虚勢を張りつつも(云いたいことをいうと宣言して)弱気なことを云うというふれ幅の中の繊細さをきっちりと。息子を演じた野本光一郎は、ややヒネた感じは得意な造型で安定していて安心感があります。姉を演じた笹峯愛はここ数作で印象がシャープになって大きな変化を感じますが、役の造型ということかもしれません。その夫を演じた佐藤達は空気読めないガハハなおっちゃん感(や、それよりは若いけれど)が楽しいけれど、物語では彼の職業について一言も語られず、スペシャリティを見せることもないので、彼についていって本当に大丈夫なのか、という説得力の点でやや残念な感じは残ります。これはどちらかというと戯曲の問題かも知れません。

福岡からやってきた姪っ子を演じた富永瑞木のちゃきちゃきな感じは好き。スタッフを演じた尾倉ケントは、すっかり牙を抜かれたヤンキー感でコミカルに使われるけれど、実はこの造型こそが物語の描かれた地域の若者像をつくるという要をしっかり。おばあちゃんを演じた松本哲也、ちょっとコミカルに過ぎるし、90歳でこれなら施設に入らなくていいんじゃないか、という印象がなくはないのだけれど、しかし祖母に対する作家の優しい目線を彼自身が演じるというのがちょっといい。

なにより魅力的なのはダテカナこと伊達香苗なのです。所属するMCRではわりとパワフルだったり逆にやけにセクハラっぽい扱いだったりするけれど、単に神と恋人を信じているというだけではなくて、葛藤の中で家業である教会を継ぐという選択をしたという大人なバックグラウンドがある一人の女性を鮮やかに描きます。

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