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2014.03.13

【芝居】「彼の地」北九州芸術劇場P

2014.3.8 14:00 [CoRich]

作演が一ヶ月半現地に滞在して劇作するという北九州芸術劇場のシリーズで、女性の演出家は初めてといいます。東京公演は9日まであうるすぽっと。145分。当日パンフに織り込まれた、手書きのマップが優しい感じで行ってみたいと思わせる出来で印象的です。

北九州の土地。結婚を間近に控えた女を東京の友人が訪ねるが、本人はなれない環境に不安になり、逃げ出したいという。東京から引っ越してきて、工場に勤めて40年が経ち定年を迎えた男は職場がなんか冷たいと感じてベトナムからやってきた40歳の工員に昔の話をする。妻が隠れてしていた仕事がどうしても許すことができない夫、妻は家を出てここにたどり着くが、夫も追いかけてきて。ヤクザの男が密かにかわいがっていた野良猫が居なくなり、同じ猫を探しているサラリーマンと出会う。アル中の男に振り回される母と弟。ケーブルカーの職員が密かサラクラ山の父と呼ばれて相談に訪れる人々が後を絶たない。母が居なくなったのは自分のせいだと考え根無し草のように友達の家を泊まり歩く高校生の男、恋人だと思っていた女もいるし、心配で自分の家に呼ぶ同級生も居る。

小倉の街を見下ろす山と、そこから見える街で暮らす人々を群像として描きます。ナカヤマと呼ばれる男が中心になるようなオープニングはありますが、全体としてはわりとフラットにそれぞれの人々をみな丁寧に描いたという印象があります。プロデュース公演で、しかも地元の役者も数多く出演するわけで、そのそれぞれにちゃんと見せ場があるという作家の確かな力は感じるけれど、人数の多さもあって幹がない(あるいは全部が幹)というのは正直に云えばパンフォーカスのようで全部にピントがあってるようでいて全体にぼやっとしている印象はあって、シャープに切り取るんじゃなくて、こういう人々から浮かび上がる街を感じて見るということが、今作の見方のちょっとしたコツじゃないかと思うのです。

ヤクザものだったりアル中だったり、あるいはストリッパーや工員など今の時代にだって確実に存在しているのに表だってはあんまり語られない、ある種昭和な香り満載な人々。最近はそういう人々を丁寧に描くことが多い作家で、決してキレイな生き方ばかりじゃなくて、どちらかというと日陰でしかし日々をしっかりと生きていく人々に対する優しい目線もまた、作家の持ち味になってきたなと思うのです。

北九州の芸術劇場のこのシリーズは当日パンフによればプロデューサーが明確に特徴を(北九州のイメージ、第一線の演出家が北九州にすみながら、地域の役者やスタッフ、東京でも公演)というもって作り出していて、現代口語演劇以降の芝居も精力的に取り上げているということが印象的です。そういう意味じゃ、アタシの住む松本もがんばってるけれど、外の演出は少なくて、どうしても芸術監督のキャラクタに近いものが多くて(それはそれでアタシには祝祭感あふれる自由劇場の再発見だったりもするのですが)現代口語演劇がすっぱり存在しないことになっているというある種の偏りを感じたりもするので、この幅広さはちょっとうらやましくもあったりします。

マリッジブルーな新婦の親友を演じた異儀田夏葉は、時に力強く励まし、あるいは巻き込まれというキャラクタに秘められた終盤の細やかな感情の解像度が高い。その新婦を演じた服部容子の細やかさ。猫好きなヤクザを演じた(すみません、役者名わからず)と同じく猫好きを共有するサラリーマンを演じた佐賀野雅和のコミカルな掛け合いが楽しい。定年の男を演じた高山力造の味わい、離婚された男を演じた若狭勝也の人のいい感じもいいし、アル中の男を演じた寺田剛史は、始終テンションが高いという嘘っぽくなりがちな役だけれどしっかり。

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コメント

なるほど。北九州の人じゃない人はどんなふうに観るのかなと思っていたのです。
北九州は昭和の街なんですよ。今度いらしたときには是非ご案内したいと思います。

投稿: sun child | 2014.03.13 23:24

ありがとございまーす。伺うときは是非お願いします。

投稿: かわひ | 2014.03.13 23:55

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