【歌舞伎】「空ヲ刻ム者 ―若き仏師の物語―」松竹(スーパー歌舞伎II)
2014.3.23 11:00 [CoRich]
猿之介が意志を受け継いでセカンドと銘打ってスタートしたシリーズ。小劇場好きとしては対等に渡り合う佐々木蔵之介がうれしい休憩二回込みの4時間20分。29日まで新橋演舞場。
凶作が続く村だが貴族から注文を受ける仏像で生活できている。若い仏師は仏や仏像は救われるといって諦めさせるまやかしだと考え仏を壊すことにする。政はここで実現できないと決めて都で役人になることを決める男。仏師は牢獄で出会った女盗賊と一緒に脱獄し、仏像を壊してまわっている。役人を目指した男は、百姓の気持ちがわかる役人として目をかけてきた上司の命に従い、政治を変えるために百姓を束ねて反乱を起こす準備をする。 仏師は忍び込んだ工房で目にした像に心を打たれる。最初は未完成でもよくて、人々がどう想い、信仰するかなのだ、ということを悟り、再び彫ることをはじめる。 幼なじみだった仏師と役人は対峙するが、どちらを選ぶべきかは明らかだ。が、百姓が反乱を起こそうとしている朱雀門には遠すぎる、もう間に合わない。
普通だったら買わないチケット、譲っていただいて初めてのスーパー歌舞伎。安くはないチケット代ですが、きっちり超満員。演舞場の久しぶりの雰囲気が実にいい。花道ヨコでみる役者たちのそれぞれの表情も実にいいのです。ああ、なるほど、花道の嬉しさ。
作/演出の前川知大といえば「散歩する侵略者」( 1, 2) がアタシにとってのマスターピース。なるほど、人と距離を取る感じ、自分が思い描くところと現実の距離、など(歌舞伎にとっては)若い世代の作家の描く主人公と友人の成長譚がある意味(少年)ジャンプのようで心地いい。 自分は何も出来はしないのだという無力感から仏像を壊して廻るやんちゃ、あるいは友人の大局として変えていくために目の前の小事には目をつぶることだったり。 思い描くこと、信じ考えたことを頼りに進む男 たちは誠実で格好いいのです。
新聞やテレビで目にするスーパー歌舞伎は、まあ宙乗りですが、それが必要になるシチュエーションを距離と時間という絶対的なもので追い込んでいってくれれば、ファンタジーになるのです。 空を飛ぶという人間には不可能な奇跡をどうやって違和感なく作るかという意味では だいぶ意味合いは違うけれどキャラメルボックスの「広くてすてきな宇宙じゃないか」 (1, 2) を思い出すアタシです。でも、そうするしかない、という瞬間があれば(芝居にはずいぶんスレちゃったアタシ)だって、今作でがーっと泣くのです。
仏が仏たるにはどうあることか、仏像であるだけでは仏ではなく、人々から信心を集めればそれは仏である、ということ、簡単に云ってしまえばそういう道筋の成長譚です。歌舞伎というよりは現代劇の物語の運び方に近くて、明確に主人公やそのまわりの人々の成長を軸に物語を進めます。歌舞伎でこういう物語の運び方をするのは珍しいと思いますが、あんまり観てないのでほんとうはどうなんだろう。
現代劇の役者が歌舞伎に、というのはたとえば「天日坊」の白井晃や近藤公園といった前例はあるけれど、しっかり物語の主軸にというのは珍しい気がします。 惑星ピスタチオの頃から目撃してるアタシとしては 佐々木蔵之介が演舞場に、というだけで泣けますが、歌舞伎の役者にちゃんと対等に渡り合ってる(少なくとも、アタシにはそう見える)ことが実に嬉しい。
幕開けの口上はびっくりしますが、更にひとり、自分は(役名である)鳴子、と言い張る老婆から始まる物語は実にスムーズで遊び心もあって楽しい。演じた 浅野和之は語り部でもあり、物語の登場人物でもあり、それを軽薄さを伴った軽妙さで全編のリズムを形づくるようで楽しく、そして見やすいのです。
成長する仏師を演じた猿之助はきっちり真っ直ぐに前を観続けます。中盤でことさらあからさまには語らないけれど、伝統を続けるばかりではなくて新しいものを、というのは先代から受け継いだ「スーパー歌舞伎」というものの置かれた位置。彼の座組だからこそアタシの心に迫ります。
女盗賊を演じた笑也は本当に格好良くて、今時の女子の男気溢れる感じらしくて腑に落ちます。 マダム、な女・時子を演じた春猿は若者を引き込むなどたやすい年増の魅力が凄い。仏師を演じた 右近は物語後半、骨太で居続ける柱。
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