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2014.02.12

【芝居】「乾杯の戦士」ホチキス

2014.2.8 19:00 [CoRich]

ホチキスとしては珍しい感じのちいさな空間での公演。 9日までエビス駅前バー。65分。

階段を昇る途中にあるその店はもう戻れないあの場所に行く前に再会したい人々と3人に逢えるバーで、一人の男が訪れる。
一人目はお笑いを目指していた時の相方、状況の直前に裏切るような形で男は姿を消していたが、時折送られるネタを目にしていて元・相方はこのコンビが最高なのだと信じていて、今の相方も事務所も腑に落ちない。

二人目は喪服の女。ともに戦った仲間だったが、あのときからずっと会っていなかった。あの一年が濃すぎて他の仕事についてもうまくいかない。
三人目は母親。スナックを営むがさつな母親とは会えばいつも喧嘩になるが、映画監督とかいう息子の嘘を簡単に信じる。何だって信じる、というからじゃあ、自分はこの星を守るために一年間戦ってきた、ということだって簡単に信じてしまう

あの世に行く前に、逢える三人との会話。青春の残り香といった風情の一人目。二人で打って出るはずだったのに、直前に逃げた男だけれど、やっぱり互いに最高なんだ、どうして死んだんだ、と普通にいい話に物語を展開。お笑いの相方を演じた齋藤陽介の熱い感じが物語によくあっていますし、ここで作った物語の下地があとで効いてくるのです。

物語が展開する二人目。一人目で残された謎「どうして突然姿を消したのか」に対する謎解きを、 地球を守るための戦隊の一員として戦ってたという唐突さとその設定の破壊力がまず楽しい。が、その見せ方が巧くて、現れた喪服姿の女を「ピンク」と呼び、主役の男を「レッド」と、言葉を交わすだけで客席を大爆笑させる、ブレークポイントが凄い。長官となんでつきあってるのとか、変身グッズのだめ押しといったおかずもてんこもり。 ピンクを演じた田中沙織は声に少々不安な感じが残るものの、ちょっと勝ち気な感じに色っぽさ(喪服は意外にせよ)の組み合わせとくれば、確かに戦隊モノのピンクのポジション、という役割をきっちり。

物語をもう一押しして、着地させる三人目。 スナックママの母親(小玉久仁子)のがさつさの登場はやや出落ち感あれど、母親の深い愛情を短い時間で描き切る着地点は盤石の物語としての強さに役者の安定が加わる盤石さがあります。おそらくは出任せで云った、映画監督になってるという息子の一言を頼りにTSUTAYAでビデオを探し回り、果てはAVコーナーまで探し回ったという、息子の活躍が楽しみな母親という造形。この下ごしらえのあとに、 それまで打ち明けてはこなかったけれど、一年間この星を守るために戦い続けていたのだという息子の言葉すら信じるということの説得感。このお膳立てがあったからこそ、この男が死んだ理由である、(自分たちの後輩である)今のヒーローの代役に立ち、身代わりになった、ということが明かされるのです。 子供の死んだ理由を聞かされて泣く、という母親という段に至ってはやや浪花節な感じは正直あるのですが、全体が短く濃縮されていることもあって、きっちりエンタメになっている、という印象が強い一本になっているのです。

死んだ男を演じた加藤敦はフラットであり続けることで、振れ幅が広い三人に対してずっと真ん中で居続ける説得力。物語の軸が揺るぎないという安心感。バーテンダーを演じた松本理史は酒を作る手元がやや危うい感じなのはご愛敬だけれど、こちらもフラットで居続けることでバーテンダーのものであるバーという場所を作ります。もっとも、三人目、カウンターの中に(母親が)入ってきてこられてはどうしようもないわけですが、漫画のコマをぶち破ってるのと同じ感じで、これはこれで楽しい感じ。

基本的にはスピードやグルーブだったり、あるいはある種のイキオイとかの印象が強いホチキスという劇団ですが、看板女優の月刊企画を始めたからかどうか、この 狭い場所に対して適切な大きさの芝居になっているということに新鮮な驚きはあります。まあ、もっとも、それはこの役者陣ですから、当然持っていて当然とも思っちゃうわけですが。

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