【芝居】「夢も希望もなく。」月刊根本宗子
2014.1.19 18:00 [CoRich]
19日まで駅前劇場。125分。(開演10分押し)
小説家志望の男と劇団員の女が半同棲している部屋。男は芸術家肌で何でも出来る自信に満ちあふれている。女は映画のオーディションの一次にも通って夢に向かって少しずつ歩んでいる。看護師を目指している幼なじみは何でも女のことを知っていてそれぞれの夢を実現するのを楽しみにしている。小説家志望が女の劇団を快く思っていないのを知り女は幼なじみが止めるのも聞かず、劇団もオーディションもやめてOLとして働くことを決めてしまう。
あれから10年が経った。小説家志望はまだ何者にもなれないまま夜勤のバイトぐらいしかしていない。女はOLとしてこの二人の生活をずっと支えてきた。
クリエイティブで何でも出来そうに思う万能感あふれる20歳代、それから10年経って自分の才能の限界だったり、あまりに地味な毎日に埋没している30歳代。そんな地味な生活を、10年もの間何とか支えてきた「気持ち」がこと切れる瞬間はあまりに切なく「夢も希望もない」のです。
物語の幹は、云ってしまえばこれだけなのだけれど、その10年を隔てた二点のクリスマス前後を同じ部屋を舞台にピンポイントで描きます。若いときの希望に溢れる感じを下手側に、10年経ってどこかくすんでしまったような感じを上手側において並行して物語を進めますが、最初は下手側で多く物語を語って二人の関係やその未来溢れる感じを描きながら、上手側で地味で不穏な雰囲気を挟んでいく見せ方が見やすいのです。
一人の役者を両方の時代に置くことをせず、カップルの二人、バイト先の同僚、親友の4人をそれぞれの時代に別々に役者を置くのは贅沢な感じ。決して似ているわけじゃないけれど、雰囲気を似せている感じもあって、その取り合わせも面白い。10年経っても冴えないままというカップルをベースに、10年経って諦める男だったり、10年経って成功を掴む男だったり、あるいは子供が生まれたり、もう既に子供が居るだったりと、10年の時間の流れを、この狭い部屋と狭い人間関係の中にこれでもか、と詰め込んだおかげで、同年代の役者で固めている割には奥行きが出てるなと思うのです。
カップルの女を演じたのは、若い頃を福永マリカ、10年後を大竹沙絵子で、髪型のせいかややぽっちゃりな雰囲気を共有。希望に溢れ女優にだってなれたかもしれないのに「愛のために」すっぱりと諦めてという心の強さというか真面目さに繋がりがある感じ。10年経って疲れてしまった、と爆発する大竹沙絵子の切なさがいい。カップルの男の二人はずいぶんと印象が激変するという造形で物語の軸に。繊細で自信に溢れるけれど未だ何者にも慣れない若い頃を演じた水澤賢人は鼻につくぐらいに若さ押しが物語の要請によくあっています。10年後を演じた郷本直也は何も得ないまま漫然と来てしまったのにだらしない造形がまたちょっと凄い。
親友の若い頃を演じた根本宗子は少々うざったいほどにお節介な雰囲気がよくあっています。10年後を演じた片桐はづきはそれとは全く違う、包み込むような雰囲気で物語を柔らかく着地させます。バイト先の同僚を演じたのは10年後を梨木智香で、もう彼女そのものな雰囲気なのだけれど、その若い頃を演じた長井短がそれに寄せるような造形で今までにない魅力。途中で歌われる歌もステキだし、その一瞬は二つのステージが繋がるのも面白い。
どこまでも優しい彼氏を演じた小林和也、冴えなかったのに10年後に成功を収める役者を演じた鈴木智久、ビッチな不思議ちゃんというかなり無茶なキャラクタ演じきった杉岡詩織、10年で唯一何も変わらなかった男を演じた田坂秀樹もそれぞれ面白い。
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