【芝居】「女王の盲景」空想組曲
2014.1.18 18:30 [CoRich]
19日までシアター風姿花伝。95分。
やることが無くなった男のもとに手紙が届く。遠い島に破格の住み込みで働かないかという誘いだった。不思議に思いながらもその島を訪ねると、老人と使用人が二人で暮らしていた。老人は自分の云ったことは絶対であること、奥の部屋には近づかないことを条件に雇い入れるが、ある日部屋の奥には目隠しをした少女が閉じこめられていることを知る。
この二人はその父親や母親、家臣や使用人たちを演じ分けて少女は小さな国の王女なのだと信じ込ませているのだ。
比較的人数の多い芝居を書く印象の作家ですが、コンパクトにたった4人で濃密に描く作家の世界。 物語とかお話というものの持つ「嘘」を主軸に据え、物語で物語のことを語る、というややメタな視点で描きます。
傷つけないためについた嘘ははじめほんの小さなことだけれど、それがどんどん膨らんでいきます。目の見えない少女に声と物語だけで国を作り、辻褄を合わせるために戦争が起こりという具合に広がる一方の嘘は決して悪意からでたものではないけれど、このままでは破綻することが誰にでも明らかになっている状況。 少女だけが歳をとらない、というひとひねりが(少々卑怯ながら)効果的で、少女自身が「誰も死なない」という嘘を受け入れられるという素地でもあるし、嘘が規模の広がりだけではなくて、時間という抗がえないものを詳らかにするだけに、ずっと付き添ってきた男の絶望的な気持ちを強く印象づけるのです。
目は遠くなるし、髪だって白くなるのに独り身で、老いということをどうしても考えずに居られなくなっているアタシです。この物語で語られる老いや若さのギャップは、 単に若いままの少女と、ある日やってきた男の若さのまぶしさに留まりません。少女が悲鳴を上げるほどに老いてしまったというシーンは、老いを身近に感じるようになっているアタシの心にぐさりとくるのです。
人は老いる、いつかは死ぬ、ということを受け入れることはもしかしたら少女が大人になる、ということの一歩なのかもな、と思ったり思わなかったり。
呼ばれた男を演じた和田琢磨は若さという眩しさをきっちり体現。盲目の娘を演じた青木志穏は純粋さゆえに残酷というコントラスト。医者を演じた鍛治本大樹はこの少々癖のある世界と私たちの視座を繋ぐ序盤をしっかり。年老いた男を演じた大門伍朗は実年齢の厚みが物語に奥行きを与えます。
この「嘘」の世界を支えているのは小玉久仁子の芸達者さ。少々堅物な使用人の役をベースに、少々コミカルに、多くの役をこなすというのは全体に静かに進む物語にテンションを与えて実はとても口当たりをよく。さらに、長年一緒に暮らしてきた年上の男へのほのかな気持ちが見え隠れする造形もいい。
ネタバレかも
終盤、暗闇の中で語られる台詞は、視覚を失った少女を観客が追体験するよう。象徴的に語られる「リンゴの香り」を、実際の香りとして追体験させるというのはライブゆえの醍醐味でもあるのです。ナイロンやキャラメルで使われたかなぁ。最近はあんまりなかったので新鮮な体験。
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