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2013.12.11

【芝居】「デンギョー!」小松台東

2013.12.8 18:00  [CoRich]

小松台東(こまつだいひがし)の新作は、地方の小さな電気工事会社("電業")をめぐるオジサンたちの熱い物語、110分。10日までラビネスト。

工事会社の現場作業者「電工さん」の詰め所。現場からのたたき上げでこの会社を作った社長が入院してしまう。社長に家庭的な雰囲気と厳しさの両方があって育て上げられ、見守られ続けてきた会社ゆえに、外部からやってきた社長の代理と現場の間には溝がある。さらに、地元出身だが東京で銀行に勤めていた元銀行マンを執行役員として迎えられる。現場の作業者たちは、いままでの社長からの変化に戸惑い、反発する。

作業着姿の現場の熱いものがたり。若い役も物語には含まれていますが、物語の骨格を作るのは、社長など一つ上の世代が去り、自分たちがその会社を支えるという世代に直面する、ということ。大きな会社なら、「半沢直樹」や「踊る大捜査線」のような、何段階もあるステップの一部になるのでしょうが、小さな会社の人間の物語として描いた結果、一番のペーペーから、文字通り明日からのリーダーに至るまでが、この狭い詰め所で、ほんの数日の物語として描ける濃密さを持ちます。

ことさらにハッピーエンドにしなくても、残って続けることを決めるもの、去るものがいるという決断のリアリティ、さらには熱い想いだけでは妻子を養えないという現実を(ややコミカルに)重ねることでリアリティを持つのです。

実体験があるわけじゃないけれど、引きこもりがちだったり使い物になりそうもない若者にともかく仕事を与えたり、社員同士を結婚させて人生の駒を進めたりということを積極的にやっているという、ある種の家族のような小さな世界の中で仕事も私生活も含めて「コミュニティ」として生きていくということ。ことさらに人のためになるような理念の会社だということを台詞にしなくても、小さな会社ゆえに一人のパーソナリティに結実させれば、この会社がどういう雰囲気でうまくやってきたかということがきっちり描かれるのは巧い。

世代交代のフロントエンドという年代ゆえか、あるいは「電気」工事というのが微妙に近しく感じるのか、働くオジさんたちの物語はアタシの心を掴んで離しません。下請けの男のセリフの一つ一つの悲哀にしても、綺麗事じゃ生活はしていけないという現実にしても、それでもここで踏ん張るという気持ちにしても、仕事と生活にちゃんと向き合うこと、ということを改めてたたき込まれるようで、泣いてしまいそうなシーンがいくつも。

業種は違うけれど、現場作業の男たち、という意味では、吾妻ひでお「失踪日記」のガス工事の日々を思い浮かべたりもします。

東京からやってきた男を演じた佐藤達の生真面目な前向きさがいい造型。リーダー格を演じた小林俊祐の不器用さ時折見せるコミカルが実に味わい深くていいオヤジっぽく印象に残ります。中堅を演じた永山智啓は要所を締めつつも妻を演じた石澤美和とのバカップルぶりが微笑ましくて好き。外注を演じた竹岡真悟は実力も迫力もあるけれどという立場込みでカッコイイおやじっぷり。なよっとした男を演じた中田麦平の真っ直ぐな恋心、「意識が高くて」やや浮き気味の若手をえんじた尾倉ケント、初めての担当でいきなり鼻っ柱を折られる緑川陽介、挨拶と想いだけはやたらにいい小笠原健吉、新入社員を演じた塙育大と、それぞれが実に魅力的。
何より凄いと思うのは、事務職の女の若い方を演じた大竹沙絵子で、タトゥの今時の若者風の造形からスタートしながら、生い立ちを経て出てくる深い闇、その先には「喧嘩をやめて」状態のめまぐるしさで、振り幅も奥行きも実に印象的な一本。作家を兼ねる松本哲也はどこまでもヒールでクール。だけど、それも現実という立場をしっかりと。

ネタバレかも

人々の想い、ということを別にすれば社長の急逝で一番混乱したのは舞台では描かれないであろう「上の方」、つまり出てこない社長代理と、喪服で葬儀にでた二人の男たちのほうだろうとは思うのだけれど、そこの物語を描けば、会社をめぐる群像劇になるところですが、それあっさり手放すして「現場と上の方」の溝を物語の幹に据えたからこその力強い物語だろうなとも思うのです。

全員が集まった久しぶりのラジオ体操に一人現れない営業上がりの男、役員の男は来ないことをやや気にとめながら (扉の外をみたりしてる )、ラジオ体操一曲分まるまるやってるあいだ、現れて欲しいと思うアタシ、その長い長い時間。そこで安易にハッピーエンドにしないほろ苦さが実にいい。

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