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2013.12.11

【芝居】「性病はなによりの証拠」ブラジル

2013.12.8 13:00  [CoRich]

ブラジルとして10年目の再演。アタシは本作初見です。120分。8日まで王子小劇場。

町工場の社員旅行で来た八丈島。小さな工場故に恋人を連れている社員も居る。二級船舶を持っている社員の操縦で船を借りてホエールウォッチングに出たが、大波におそわれ、レジャーボートにぎゅう詰めになった8人が漂流している。
そのうち、一人が突然嘔吐に襲われる。元看護師の社員に問いつめられ、性的接触でしか感染しない性病にかかっていたが、その治療薬は船に置いてきてしまったという。

白濁系といわれてたころよりはずいぶん後だけれど、黄色い嘔吐物がそこら中に出てくるなど、往年の「エロ・グロ・ナンセンス」な感じもたくさん。

生死が迫る過酷で切迫した状況を舞台にそこに性的接触でのみ感染するという性病という物語のスパイスを一振り。隠しておきたかったことが露呈していくという過程の面白さ。小さな嘘はもとより、生き様とか愛とか生活とかさまざま偉そうなことを云っておきながら「セックスをした」という一点で崩れてしままうこと。それを混乱しながらも乗り越えていったり、あるいは乗り越えるまでもなくそんなことは折り込み済みで変わらぬ愛情だったりが交錯する物語は、物理的な狭さもあいまって圧倒的な密度で迫ってくるのです。

これだけセックスのことを扱っているのに、舞台では直接的には性的なことをほとんど描かない(そのかわり嘔吐しまくりなわけですが )というのもちょっといい。7日水なしはいくらなんでもとか、そもそも排泄はどうしてるのだとか、まあ細かいところをツッコめばキリがない気もしますが、それは黙って見過ごすのが吉。

役者8人が乗る定員3人のレジャー用ゴムボートが中央に。それを囲むように客席が設定されています。ボートに乗っている役者たちは中央に向かい合って乗ることになるので、背中しか見えないシーンがいくつもあるのだけれど、それがあまり気にならないのはわりと良く拝見している役者揃いというだけではなくて、それぞれの役の関係や立場が(役名の横に書けるぐらいに)明確に分かれていて、仕草が想像できるぐらいにはっきりしたコントラストをもって造型されているからではないかと思います。

見せ方に関してはもうひとつ。最初は観客を混乱させないために座り位置を固定したままである程度物語を進め、役が定着したあたりで(方向のないゴムボートという枠を生かして)、途中の暗転で役者を180度入れ替えています。「物語の受け入れやすさ・見やすさ」と、「見えないという観客のストレス」をわりと早い段階で低減するというバランス。巧いなぁと思うのです。私のような記憶力の薄弱な観客でも安心して見ていられる安心感。

主任を演じた西山聡が前半を空回り気味でも構わず突っ走ることで、ほとんど動きのない舞台の助走となります。ボートに詳しい男を演じた印宮伸二は信号弾がないことなど物語の細かなリアリティを支えることでこの物語という大きな嘘っぱちに説得力。妻にデロデロな感じも楽しい。その妻を演じた金沢涼恵は献身さが勝つ前半から後半で開きなおる感じが楽しい。女が前面に出る感じは珍しいけれど、ホンモノの色気に至らないのは可愛らしくご愛敬。お局を演じた堀川炎は情欲も諦観もいいバランス。社長を演じた辰巳智秋との取っ組み合いのあまりの大きさが違うコントラスト。互いに首に手を回してるのに、片や半分もまわらず、かたや頭全体を包み込めそうなほどの差なのに取っ組み合いが対等に感じられるぐらいのパワフルが楽しい。その辰巳智秋、食欲に振ったのんびりした感じがすき。作家志望を演じた諌山幸治、その恋人を演じた小川夏鈴の引かれ合う感じが素敵、佐々木千恵のヤンキー豹変が楽しい。ちょっと水着が見え隠れしちゃうのも喜んでしまうオヤジなアタシです。

ネタバレかも

終盤に至り、もう一押し。生きていくため、生むための人肉食まで見据えた会話。芝居なら「審判」「ひかりごけ」、映画なら「アライブ〜生還者」あたりの題材ですが、考えはよぎっても少なくとも物語の表面上は明確には語られません。飛べると信じてボートの上から姿を消したと語られる最後から3人目は天使に、と考えると、産まれる命との対比で少々怖い話にもなりますが、それはおそらく考え過ぎとも思うのですが。

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