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2013.12.16

【芝居】「アイロニーの夜」KAKUTA

2013.12.15 19:00 [CoRich]

14日まですみだパークスタジオ倉。 朗読シリーズ。140分。14日まで。

洗濯物を干していたら髪の毛が物干し竿にからみついた。外を通っていた男が解いて、庭が気になるといって、手入れをする、出来は良くて、料金も格安。トイが気になり、物置が気になり。「テンガロンハット」(kindle版あり)
同級生はものすごく格好良くて、動物園のアドバイスでキスも出来た。社会人になって、自分は中華料理屋に、もう一人は文房具屋に。格好良かった同級生は車の部品を作っていて、相変わらずカッコいい。社員食堂があまりに混んでいて、ショートカットしようと、プレス機の横をすり抜けるが。「虎の肉球は消音器」
銭湯で風呂に入る女二人。高円寺には「足が炎上してる男」が居るという。恩師の葬式で同級生はいっぱい居たが、昔のとおり、モテもせず、同級生たちも気づかず、親友と二人、そんな炎上の話をする。マンションを買い(諦めてない)、自分だって稼げている。女ふたり、バンドを始めることにする。「炎上する君」
隣に引っ越してきた熊とピクニックに出かける。(が、2011年の春か)「神様2011」
勤めていた工場をクビになった女は列車にのって旅に出ようと考えるが、停車中の駅で、同じ工場の後輩にみつかり、彼女と一緒に旅をすることになる。「アイロニーの夜」

日常がほころぶ瞬間というテーマで集められたのかな、と邪推する短編集。ホラーめいていたり、SFっぽかったりというバラエティが楽しい詰め合わせ。

「テンガロン〜」は日常に滑り込む善意に見える他人がエスカレートしていく一本。悪意のかけらもなく善意ゆえにというのは小説という感じですが、最初のきっかけはともかく、善意が膨らんで、日常のちょっとしたことから、どんどんコントロールが効かなくなっていく感じの怖さ。 男を演じた若狭勝也は、いい男ゆえに女が一瞬油断するということの説得力。女を演じた大枝佳織は、最初の物干し竿に髪の毛が絡むというのがやけに可愛らしくて目が離せないまま、物語に引き込まれます。

「虎の〜」は腐れ縁の男ともだち、年を重ねていけば人生のコマを順調に進めるもの、挫折するもの、そもそもスタートもしてないものなどそれぞれの差が出てくる感じは身に沁みます。ちょっと巧く人生立ち回っていたとしても、それがある日突然反転してしまう感じ。仕事なんてものがどうなっていくかはもう解らないのだという今の時代の雰囲気にもよくあっています。俺を演じた成清正紀は置いて行かれる感じの焦りと、それゆえに二人の友達をずっと見つづけているという造形。追い抜かれる男を演じた佐賀野雅和も、追い越す男を演じた櫻井麻樹ともども、くだらない男子たちの腐れ縁、という楽しさを目一杯。

「炎上〜」は恋とか結婚とかにはもうはっきり見切りをつけた女ともだちふたり。順調で隙のない生活設計のはずなのに、何かが足りないと感じて高円寺に住んでみたりバンドを始めてみたり(もっとも生活は安定させた上でというのがちょっといい)というのが、なんかカッコいい。どこかコミカルで形式ばった風の女二人のかけあいがおもしろいけれど、それが「女を値踏みしない男」に出会うことであっさり女になってしまう、という落差を生み出して、それまで穿いたことのないハイヒールとか、身体を磨くということになっていくのが微笑ましい。もっとも、こういう「かわいくなっちゃう女」をいいなと思ってしまうと云うこと自体がもう、女を女として値踏みしてるってことなのだろうから、この物語の中では唾棄すべきもの、ってことなんですが。
最強の女優二人のタッグが楽しい。高速に三つ編みをする女を演じた桑原裕子も高円寺に住んでいた女を演じた異儀田夏葉にしても、決してブスなんかではないのに、こういう役がくるとやけにイキイキと見えてしまうというのはどうなんだ、と思ったり。

「神様〜」 (1, 2) はこの劇団の朗読シリーズでは定番となった一編を311以降に作家自身が書き直した一本。物語の骨子は変わらないのに、そこかしこに放射線とつきあうざるをえない人々の生活という体裁に変えています。正直にいえば、物語としておもしろくはなっていません。川上弘美ほどの作家がそれを自覚できないわけはありませんから、それでも彼女にとって最初に賞を取った一番大切であろう短編をあえてこう書き直そうと考えた、という事実こそが作家の怒りというか悲しさの深さを感じさせるのです。
「神様」を大切に取り上げてきたKAKUTAのリーディングがこれにもあえて「つきあっていこう」という心意気に主宰の、あるいは劇団の気持ちを感じて嬉しくなるのです。

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