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2013.12.18

【芝居】「目頭を押さえた」iaku

2013.12.15 13:00 [CoRich] 昨年初演の作品を東京・三重のツアー。 アタシは劇団じたいが初見です。三重のあと、15日までアゴラ劇場。115分。

田舎の村、山の林業で暮らしている。それぞれの村が仕事を分業することが進んでいるが、この村にはもう林業を営んでいるのは枝払いの一軒しかない。弔いもその一軒が行う習わしで喪屋(モヤ)が庭にある。
その家の高校生の娘をモデルにして同級生が撮った写真が高校生の写真コンクールで全国一位に輝く。亡き母のカメラで母親の生まれ故郷のこの村の暮らしている姿を遺影として撮りつづけてきたなかの一枚。父親は妻を亡くしたあとに、娘をつれてこの村にやってきた。葬儀社で勤めていて、古いしきたりの親戚との距離がある。
高校の写真部はたった一人で、暗室を取り上げられることになってしまい、この喪屋を使わせてほしい、と頼む。本来は亡くなった者と跡取りだけが入れる部屋だが、普段はおとなしい従姉妹の熱意にそれを許す。コンクールの優勝を機会に、写真を学びたくなり、ここを出て東京の芸大に進もうと考え始める。

少しばかり不思議な葬儀の風習を持つ田舎を舞台に、村で一軒になりながらも林業と風習を引き継ぐ一家と、そこから東京に嫁いでいたが亡くなりこの土地で働くようになっていた一家。従姉妹どうしの二人の女子高生を物語の核にしながら、この狭いコミュニティの中で風習や産業を引き継いでいくこと、を描きます。

田舎のこんな土地だけれど、短大には通わせてもらえそうだし、この集落から出て行くという選択肢を思い浮かべもしなかった女子高生。従姉妹だってきっと同じようにここに残るはずだと思っていたのに、コンクールの優勝というきっかけで東京に出てみようと考えているのを知り、置いて行かれるという気持ちがめいっぱいに。想いを寄せる教師も顧問と部員という立場ゆえに近いのが嫉妬を生み出していること。

田舎の女子高生という役だけれど、セーラー服はともかく、夏休みらしいやや露出多めな普段着のまぶしさったらないのです。物語に出てくるほとんどは親戚や女性ですから、そこに唯一若い教師が他人として存在しているということ。そこには成熟し恋心も嫉妬もしているという大人の女のすがたが描かれているように思います。 写真家になりたい女子高生を演じた松永渚は、物静かな中に力強い将来への意思が少女から大人への一歩をしっかりと。従姉妹の女子高生を演じた橋爪未萠里はそれまでの明るさ爛漫さゆえに、逆に教師への想いが伝えられなかったり、置かれていくような寂しさが終盤で決定的な一枚を撮ることにつながるという説得力。

写真家になりたいという娘を持つ父親はその成長を眩しく思いながらも、彼にだって生活がある拘泥。他の土地から来たのに一人でもここで暮らすことに拘泥することに多少の違和感は感じるけれど、あの不器用な感じがやっとの思いで手にした仕事を手放したくないという気持ちか。 娘を手放してしまえばこの土地へのつながりを失い仕事も生活も立ちゆかなくなるというということの恐怖はいかばかり。演じた金替康博は、どこか抜けたようなコミカルさが持ち味の役者ですが、それが木訥とした生真面目さのようなものを感じさせていい味になっています。

わりと重い物語に見えたりもするけれど、実際に見ている感覚は大笑いするようなシーンも多くて実に見やすいのです。ひたすらにカレーが出てくる感じとか、夫婦の会話のずれた感じ、つっこむ感じの楽しさとかのバランスがとてもいいのです。 この土地独特の風習を語りながらも、この笑いによるリズムや見やすさを支えるのは、夫婦の二人。 父親を演じた緒方晋の凄さ。関西弁のおっちゃん風で、やや不機嫌気味に突っ込んでいく感じとか、基本的にはあまりしゃべらない感じとかが大人の男っぽくてカッコいい。母親を演じた魔瑠はずいぶん久し振りに拝見する気がしますが、かつて遊気舎が東京公演を重ねていた頃のアナーキーさはどこへやら、可愛らしさも兼ね備えつつ、おばちゃん風情な感じが物語を柔らかくしています。

教師を演じるうえだひろしは、若い教師のまっすぐさ、揺れる気持ちが繊細に。家庭教師を演じた七味まゆ味は、都会のキレイな女の人、という女子高生にとっての憧れを体現するような素敵さ。長男を演じた野村脩貴は子役だけれど、ゲームばかりの引っ込み思案な「子供」っぽさが成長する一瞬が印象的。

なにより、登場するすべての役がきちんと物語をもっているし、無駄だと思えるエピソードも物語も何一つなくて、必要にして十分という密度のすごみ。どの役のどの台詞も削れないようなぴったりした感じは気持ちがいいのです。

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