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2013.12.02

【芝居】「その胸にうなだれて」and Me

2013.11.30 19:00 [CoRich]

出演者は女性ばかりでの上演というプロデュースユニットの新作は助産院を舞台にした出産と女たちのものがたり。3日までOFF OFFシアター。95分。

助産院。助産師と、高校教師である娘、助手が暮らしていて、出産間近の妊婦はここに泊まっている。助産師のかつての同僚の娘が助産師になり近くの総合病院で助産師と働きながら、時々手伝いに来ている。総菜を配達する主婦も顔なじみだ。
最近の出産事情について取材をしたいというフリーのライターが訪ねてきたり、自然分娩にこだわる妊婦が紹介状を携えて訪れたりしているある日、助産院への無言電話やここの助産婦とその娘への中傷がエスカレートしている。

出産の舞台(現場というわけではなくとも)立ち会った経験のないアタシです。自然の営みではあるけれど、そこには間違いなく母親にも子供にも危険はあって医療の介入も必要な場面もあるし、その甲斐なく亡くなることもあるし、あるいは妊娠ということに広げてみれば堕胎もあって。
作家・笹峰愛は妊娠・出産にまつわるこれらすべてのさまざまを1時間半強の時間に詰め込みます。トピックは豊富だし、出産の一番の根幹の部分は母子の健康というメッセージの持つ力強さとのバランスも間違いなく見応えがあります。

それぞれの女性たちが背負う物語をきちんと描き、それを上っ面な説明台詞ではなく、その気持ちの動きに対してこういう行動をする説得力も確かです。正直に云えば、トピックとそれぞれの人物の背景を詰め込んだ結果、たとえばライターの立ち位置や、母と娘、助産師どうしの関係(これもきちんと描かれているけれど)混乱しそうな感じは残ります。

出産を巡る昨今の情勢、そもそもリスクがあるのに医者や助産師に対しておしなべて「死なせた」とあげつらう感じ(マスコミと受け手の問題だとアタシは思うけれど)、結果、産科を閉じる病院のことだったり、ことさらに自然分娩に拘泥することの危険、普通の出産なんてものはないのだ、ということの女性たちをめぐる物語もきちんと取り込んでいる(結果として詰め込むことになるのは痛し痒しだけれど)のは作家の執念すら感じるのです。もっともアタシは週刊モーニングの「コウノトリ」あたりの知識ですが、当事者たちにとっては確かに切実なこと。

助産師を演じた津田真澄は細やかだったり、説得力だったり圧巻の叫びだったりと、オフオフという狭い舞台の規模を超えるような確かな力。妊婦を演じた菊池美里のオーガニックなふわふわした感じはちょっと似合わない感はあるのだけれど、そういうことを云ってられない陣痛のある種の顔芸のギャップが好き。総菜屋を演じた川原万季は物語の上で難しいポジションですが、おばちゃん感が楽しい。病院に勤める助産師を演じたもたい陽子は自然体で、パワフルさもあって魅力的。助手を演じた内山ちひろは物語を背負わないけれど、そのかわりにこの場に集う女たちの物語を絶妙にコントロールしています。ライターを演じた大見遙は、取材の不躾さなどある種のヒールをきちんと背負います(これを描いている作家は、それを自覚してるというのも信用できる)。娘を演じた村田綾は可愛らしさ、この産院で生まれた命の先にある人の姿、という未来を感じさせるポジションをしっかりと。

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