【芝居】「モモノパノラマ」マームとジプシー
2013.11.23 14:00 [CoRich]
マームとジプシーの新作。100分。12月1日まで神奈川芸術劇場大スタジオ。そのあと新潟、北九州。
その猫は生まれるたびに川に流すことを繰り返してる友達の家から貰ってきた。妹は、自分の友達をとったとかシャーペン買って貰ったとか難癖を付けていつも取っ組み合いになってしまう。レールに耳をつけて列車の音を聞いている友達は正義感が強くて。好きな男の子が出来た友達は、家で出せるお菓子がイケてないのがとてもイヤでだったりする。
過去公演のタイトル「コドモも、モモも、森んなか」を少し種明かし的に当日パンフに。作家自身が亡くした猫の喪失感から、再び海の見える町の子供たちの物語(一部では「北の湘南サーガ」、と呼ぶようです)への回帰とも感じられる体裁に。
その街にいるしかない子供たちの狭い狭いコミュニティの中だけれど、生まれまくる猫をそのつど川に流させられる子供だったり、恋する女の子だったり、友達の家で朝まで遊ぶことだったり、姉妹の取っ組み合いの喧嘩だったり、男の子たちのクダらない水泳だったり。おそらくは作家が過ごしたある時期の断片をつなぎつつ作り上げた感じ(本当かどうかはわかりませんが)。ナイーブで、子供たちだってそれぞれの自我と事情があってという雰囲気がめいっぱい。
いくつかある姉妹の取っ組み合いというシーンがとても愛おしい。自分のものだと思っていた友達を取られてしまったと感じて不愉快に思うという感覚は、友達とても少な目なアタシとしては実体験と感じられるわけではないけれど、そういうことをたとえば人脈とか人間関係として感じる大人だって(大人ゆえにさらに面倒くさく)居るわけで、それが箱庭のように描かれるこのシーンの濃密さ。あるいはお姉ちゃんはシャーペン買って貰った、ワタシはお姉ちゃんのお下がりの練り消し貰っただけだというのも言いがかりに近いけれど、狭いコミュニティの中で生きているがために、そう感じるということを描き出すおもしろさ。姉を演じた成田亜佑美の圧巻な安定感は物語の一番外側の骨格を作る強靱さ。妹を演じた吉田聡子はその枠組みのなかではあるけれど、暴れ回る(ように見える)気持ちの強さが凄い。取っ組み合いはある種のプロレスなアングルだけれど、これはこれで見てて楽しい。
あるいは、好きになった男の子に告白して受け入れてもらったけど男の子が「連絡してくんなよ」とかいうガサツな感じの返事しかもらえない切ない感じとか、自宅に友達が来たときに、かりん糖はあるけれど(自分がイケてると思う)柿ピーがないとか、お母さんがパンの耳を揚げたのを出すとかが耐えられない、といった子供はそれぞれの家の親の事情と他が違うことに強烈なコンプレックスがあるというのも「子供から見える世界」がそのまま舞台に載っているよう。演じた伊東茄那は、髪の色のせいかマームっぽくない感じだけれど、むしろそこに内気な女の子という役を当てたことが効奏して強い印象を残します。
レールに耳を当てる年上の団地に住む女の子の存在は、どこか謎めいています。後半の静かなシーン、梯子の上からでことさらに盛り上げないのも巧い。演じた荻原綾は秘める雰囲気がどこかなまめかしさすら感じさせる質感。生まれた子猫を流す子供を演じた召田実子は、あげたはずなのにずっと気にかかっている、という造型が切なくて新しい魅力。
毎度のことながら凝っている当日パンフ、紙を二つ折りに縫いつけた内側に押し花(かな。モモへの手向け、か。)と当日パンフ。出演していない(しかも別の本番が直前の)青柳いづみのクレジットが嬉しいのです。
四方囲みの客席、角材でつくられたいくつかのフレームをマジックテープで縛るように箱や屏風状に組み立てて作る空間のおもしろさはわくわくする感じ。正直にいえば、正面(元々の客席の側)から見て上手側端に座った私には終盤フレームで組み立てられたままで待機する役者たちもその側に集められていて、姉妹と猫の終盤の物語がとても遠く、ほぼ遮られている感じになるのは残念。三鷹のアレや池袋のアレに比べれば格段に見えない客席は減っているとは思うものの、(自由席でしかも開場からずいぶん遅れての入場なので自己責任なんですが)、こうも(アタシが座った席がことごとく外れるということが)続くと、演出が観客からみた空間の把握ができないのでは、という疑念がぬぐい去れないのも事実なのです。(や、そこの席でなければたぶん、格段に感想は違うと思うのですが)
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