【芝居】「冬の支度」菅間馬鈴薯堂
2013.10.5 15:30 [CoRich]
売れない演歌歌手の物語を描く看板シリーズの最新作。90分。7日まで上野ストアハウス。 毎度の事ですが、台本が劇団ページで無料公開されている心意気は変わらず健在なのが嬉しい。
札幌・ススキノに唯一残るキャバレー「モンテカルロ」を尋ねる売れない演歌歌手・ザザ。ここで歌っている知り合いを尋ねて歌いに来たが、その友人はすでに引退していて、新しい専属歌手が居るし、歌も歌うホステスたち沢山居てその隙はないかに思われたが、専属歌手と支配人が歌を気に入ってしばらくここで歌うことになる。
かつては日劇の舞台を踏んだ専属芸人が仕切るショーも飽きられていてキャバレーの時代は遠くになり、景気が悪くてこの店がいつまで持つかもわからない。オーナーは松江の知り合いの店にこの店の従業員を行かせ、従業員たちの生き残りを模索している。その松江の店に行った従業員の行方がわからなくなり、ザザと専属歌手、黒服と留守番の男は捜しに特急列車に乗り込む。
かつてはマネージャーが付いてた気もするけれど、 すでにマネージャーも付かなくなっての一人旅まわりな味わい。流れ流れてほかに行くアテのない女たちが溜まる場所。景気は悪くてこの店だってどうなるかわからない、カツカツな感じだけれど、身を寄せ合い生きてる人々。
華やかな専属歌手だって、客に触られたりするけれどそれでも笑っていなくてはいけない客商売。 あるいはホステスたちだってステージに立ちたくての仕事。手作りの衣装だけれど生地を慎重に選んで衣装を作ることに胸ときめかせる気持ち、一方でそんなことより芸を磨けと云われたりするシーンがなんかいい感じ。あるいは古参の芸人のアイディアに頼ったステージ、それなのにもう芸が古いと悩む気持ち。「身銭を切って」入ってくる客に向かい合う真摯さはきちんと持つ気概を持つ良き古さ、がカッコイイ。
歌手の二人の競演の格好良さとある種の場末感の絶妙のバランス。ホステスたちの賑やかなステージもそれを感じさせます。古ぼけた楽屋をベースにしたセット(実に味があっていい)に 銀色のシートを敷き詰めるだけで舞台に早変わり、というワンアイディアは簡単なのに実に効果的。
正体の分からない不安を抱える歌手、謎めいた黒服の男が実は大船渡の貨物船の船員だったのに津波にのまれた後にどうしてここにたどり着いたかはわからないというシーンをはさみ、物語は急展開。謎の失踪を遂げた三人とそれを探しに行く人々というのはどこかサスペンス風味だったりもするけれど、銀河鉄道も交えて、きっちりファンタジーを描いちゃうダイナミックレンジが凄い。その合間、大雨の列車の中、若くはない二人の不器用な恋模様を交えるのも密度が濃くて嬉しい。
なかなか歌を聴く機会のない椿真由美が専属歌手、しかもドレスの裾をひらりと、に不覚にも(ある意味失礼ですが)ときめいてしまったあたしです。負けじとというわけではないのでしょうが、このシリーズの主役、六十代の歌手を演じた稲川美代子は時にコミカル、時に真っ直ぐで気っ風のいい人物をしっかりと。専属司会者を演じた蛍雪次郎の浅草を思わせる軽演劇の軽やかさがいい味わい。
蛍雪次朗は舞台に出た瞬間に昭和(のキャバレー)の香りを劇場に満たすちから。小高仁の不器用さもすてき。坂口候一は人情に厚い造型が実によくて。
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