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2013.10.18

【芝居】「中野の処女がイクッ」月刊根本宗子

2013.10.14 14:30 [CoRich]

18日までゴールデン街劇場。100分。 四人の女性がメイドとして働くメイド喫茶のスタッフルーム。オーナーは一番年上のメイド長が延長客を取れていないと叱咤するが、彼女自身は後輩たちの面倒をみたりするのにも忙しくなかなか思うに任せない。一番年下は自由な物言いにイラっとすることもあるしまだ目がはなせない。中堅の一人はストーカーに追いかけられているし、オーナーの恋人でもあって、元カノであるメイド長との関係は互いにやりにくい。
ある日、社員として大人の女が雇われて来た日、もう一人の中堅の財布がなくなった。

風俗未満だけれど、女子をウリにするメイド喫茶。オーナーをのぞけば全員が女で、表面的には普通の会話をしているのに、好きとか嫌いとか企むこととかが充満していてむせかえるよう。 オーナーの元カノと、現在の恋人、無邪気というよりは無神経にちかい最年少、ごく普通にみえるけれど、財布に拘泥する人。

目の上のこぶのように相手が居ることが目障りで追い出したい気持ち、そういう気持ちで見られていることは十分わかっているけれどこの店を作ったという自負もあって辞められない気持ち。物語の上でちゃんと逃げ場を封じてあって、その上で陰口によって味方を増やしていって辞めさせようという構図の前半の構成がちょっと怖い。端的に見せていて女子だしな、と言われがちな構図だけれど、いわゆる仲間外れだって何だって、わりと誰にでも多かれ少なかれありそうな感じではあると思うのです。

好き嫌いという個人の好みに依存してのパワーゲームを見せる前半に対して後半は、「常識」をめぐるパワーゲームとでもいう様相。人の痛みが判らなくて、財布をとるのも悪いと思ってないどころか見咎められても開き直るというよりは何がわるいか判らないという理解不能な新人類(←言葉が古い)が物語の着火点。財布の金を盗るけれど着服するわけでもなく燃やしてしまい、駄目にしてしまったのは父親からの大事な財布だったといわれても謝る気持ちにはなれないヒールっぷり。それが、地震によって連絡がつかなくなった実家によって一転、泣きじゃくるだけのか弱い存在に。それだけでなく、それまで責め立てていたまわりも一転同情に回ってしまい、「財布をとられた私」はまだ責め立てたいのに逆にたしなめられる、というくるりと反転する感じわくわくするほど面白いし、それがなんともラブストーリーな結末に着地するというのは鮮やか。

正直にいえば、財布に対して誰もが同情にまわる事象として(現実として生々しすぎる)震災である必要はあるのか、とかそれでも責め立てたい女の真の気持ちは処女のイッちゃうほどの一方的な想いというのは説得力という点で少々心許ない感じはあって、ここのそれぞれの事件と想いバランスは少々もったいないなとは思うのです。

メイド長を演じた大竹沙絵子は結果的にはもっとも常識人で観客の視座に近いところに。ダイエットに苦心惨憺にしても、中間管理職の悲哀という時に滑稽ですらある味わいまで感じさせます。対抗心を燃やす女を演じた根本宗子は恋に生きるあまりにじゃまを排除したい感じがちょっといい。 財布をとられた女を演じた石澤希代子は、ひたすらにまっすぐな想い。それは財布、父親、恋する気持ちとかわっているけれど、そのまっすぐさが時に空回りというよりは暴走する造形がいい。 財布をとった女を演じた尾崎桃子は舌足らずで可愛らしいのに、内面は悪いというよりは空っぽというか理解不能な感じが時に昆虫のよう(誉め言葉です)に見える凄みが圧巻。地震までの空虚なヒールさがじつにいいのです。 社員の女を演じた梨木智香は出番としてはちょっと抑えめだし語られるエピソードもややとってつけた感があるけれど、テンションじゃなくて、普通の女性という魅力を改めて。「味方に付けてもしかたない」という台詞が実にいい。オーナーを演じた浅見紘至は人情を前面に、客を演じた市川大貴はまさかの結末にひっくり返るのです。

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