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2013.10.19

【芝居】「伯爵のおるすばん」Mrs.fictions

2013.10.14 17:00 [CoRich]

14日までサンモールスタジオ。130分。

中世フランス、貴族の家。夫とは別れて暮らす女主人の家。奴隷の一人として買われてきた男は橋のたもとに誰も知らないぐらい昔から住んでいたのだというが、言葉も何も知らなかった。貴族にもかかわらず、奴隷に文化や教養を身につけさせたいと考えた女主人は丁寧にすべてを教えるが、ある日別れて暮らしていたこの家の主である夫が戻ってくるので、奴隷や召使いたちは家を出され、パリの町で喜劇の大道芸をするようになる。奴隷がこの家に戻って来たときには、夫を亡くした女主人は老いていて、家の外には革命を求める市民たちが押し寄せてきていた。
1995年の日本、高校の保険教諭となっていたのはあの奴隷だった。あのときとは変わりなく、中世貴族の格好ゆえか「伯爵」というあだ名で呼ばれていた。入学式早々に保健室にやってきた女子生徒は身体が弱く、保健室登校も多い日々を暮らしていた。女子生徒はその教諭を好きだというが、生徒と教師の関係だけでなく、忘れられない人が居るといって告白には応えられなかった。卒業式の日に、女子生徒は療養のために田舎の病院で待っているので気持ちの整理がついたら迎えに来てと告げるが、ついに迎えに行くことなく、女は死んでしまっていた。
2023年の新宿、抗争に明け暮れているやくざの事務所。当たり屋で伝説となっていた男も、あの「伯爵」だった。同棲しているのは抗争相手の大手暴力団の若手で、鉄砲玉として仕事を任され喜ぶが、そのターゲットは「伯爵」で、追い込まれて二人は監禁されてしまう。
それからずっと時が過ぎて、一人固くなって横たわっていた「伯爵」を発見したのは宇宙からやってきた家族連れだった。この星の上にほかに生命はなくなっていた。この家族の説得にもかかわらず、伯爵はこの星に残るという。男を発見した家族の娘が、伯爵と一緒にこの星に残るのだという。何千年かは生きているはずだし、伯爵の頭に白髪をみつけて老いていないわけではないのだ、といって。
白いドレスの女と地球最後の日を迎える伯爵。ワインを片手に、いい天気のうららかな日、二人でテーブルを囲む。

2時間越え、実に56億年もの悠久の時を描きます。大河にもほどがある長い長いものがたり。 なぞめいてふらりと登場し、最初は子供のように洋服の着方すら何も知らない男。相手となるマダムが奴隷にも教育熱心というのはコミカルでおもしろいけれど、最初に接触する異性たる母親を具現。 場面の締めを革命の一場面とするのはその時代で描く必然のようなものがちゃんとあって巧い。父親たる存在が現れないままというのも子供の感覚としてちょっとおもしろい。 続く高校保健室の保険教諭というのは出来すぎな少年マンガのようだけれど、なるほど少年~青年期の恋心を描くよう。3年間を早回しで見せて、それが病弱な美少女というのも「そういう感じ」でおもしろい。 ここで物語を順当に進めずに、近未来のヤクザ(レーザーガンを懐にというのもおもしろい)に、さらに恋人は美少年というBL的要素にひっくり返しまくるのは作家の確かなちから。なんか20歳ごろのいきがってる感じ。 さらにひっくり返して宇宙人との恋心という四つ目。相手の家族が出てきたりするのは結婚を意識するような年頃な感じもしますが、一人で生きていく覚悟のところに彼女が戻ってくる、という王道ラブストーリー。 最後のシーンはうってかわって、幸せなふたりきりの結婚の姿。物語の流れとしては少々唐突だし、彼女はいったい何者なのだということは語られずに、30歳ぐらいの、普通の寿命らしい女と結婚に至る互いの気持ちは何かということはついぞ語られません。前のシーンのおわりに「伯爵に白髪がある」という台詞があって、なるほど数億年ずっと生きているから不老不死かと思えば、ごくゆっくり老いていく、ということはごくゆっくり死んだのだな、とあたしは解釈しますが、ここは評価が別れるところかもしれません。死んだ男が、あるいは死にゆく男が夢見た(夢に見た、ではなく)普通の結婚の姿。きっちりファンタジーであたしだって想像するしかないけれど(泣)、きっちり描ききるのです。

不老不死といえばあたしにとっては「火の鳥」(実は全部は読んでないけれど)だけれど、不老不死を気持ちの絶望として幕切れさせるのではなく、(不老不死の前提をあえて崩して)ファンタジーに着地させるのは、作家の優しい目線、だと思うのです。

伯爵を演じた岡野康弘はイノセントから若く実直、老成にいたるまでのダイナミックレンジをもちつつ、まっすぐに生きている男を好演。序盤をしっかり物語る王妃を演じた小見美幸、女子高生のまさに「透明感」が印象的な相楽樹、同棲する男という説得力を持つ野口オリジナルはしっかりと安定感。
宇宙人を演じた志水衿子は不器用なややツンデレっぽさ。セリフの発声に癖のある役者ですが不思議とそれが気にならない造型になっていて新たな魅力。 白い服の女を演じた浅利ねこもまたあまり見られない穏やかな女性の造型で魅力的です。

登場人物の名前がお菓子のメーカーというのは薄々気づくけれど、ぐぐってみれば思ったより多くて、伯爵やパパママなど一般名詞以外の全員がそうなっていてその徹底した遊び心が楽しい。ユーハイム、ロイズ、ブルボン、モロゾフ、UHA味覚糖あたりまでは知ってても、まさかリスカとかカクダイまで製菓会社とはつゆ知らず。ついつい検索してしまうアタシです。
あるいは、「エロいメイドの時代が来る」と言い切る中世のメイド、なんて遊び心も楽しい。

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