【芝居】「花の散りぎわ」年年有魚
2013.8.31 19:30 [CoRich]
年年有魚の新作。110分。9月1日まで駅前劇場。
交通事故で幼い息子を亡くした女は、三人姉妹の三女で、事故の直後に義母から責められ、退院してからも夫の元には戻らず静岡で長女夫婦が暮らす実家に居続ける。次女は東京で小さな会社に勤めるがその経営者と不倫している。四女の夫は高校生の頃の三女とつきあっていたが、大学生になった四女と再会して結婚した。四女は懐妊し、実家で出産をしたいと知人の助産師を依頼する。
ひし形の舞台中央は一部屋、その外側に回廊状にぐるりとひとかこみ、その外側は奥の側だけにもう一段の舞台。部屋の中のこと、別の場所の出来事を空間的には交錯するように描くのは暗転をなるべく減らすいい工夫。
物語の核となるのは、自らの不注意から招いた交通事故で幼い娘を失った三女と、彼女を許せない義母、三女の元の恋人を夫にした四女が三女も居るその実家で出産するできごと。四人姉妹という設定はこれを取り囲むように作られていて、長女夫婦はまるで姉妹たちの両親のように妹たちを見守り続け、しかし自らの娘もきちんと育て上げ。次女は不倫にはまりつつも、幸せのきっかけをつかんで。
事故を巡る三女夫婦と義母の話、正直に言えば三女が責めを負うということは匂わされているけれど、単なる不注意なのかどうかを読みとれずに、どこまで同情すべきレベルなのかを計りかねたアタシです。友人によれば、終盤、観客が固唾を呑んで見守るシーンのたった一言なのだといいます。時間がかかったとしても夫はなんとかこの妻をつなぎ止めたいとやっと迎えに来るに至る終幕での作家の視線は実に優しい。
あるいは、離婚を迫った義母を訪ねる長女の娘というすごく突飛な組み合わせの直前のシーンもいい。これからの未来は自分で切り開くことばかりなのだという視座の19歳と、もうあとは人に委ね、期待するだけの「残りの」人生だという義母のコントラストは後戻りできない人生の時間の流れを残酷に見せるけれど、亡くなった息子に変わって自分が孫のようにする、というこの無茶な物語の展開が実に面白くて、その突飛さが凝り固まった義母の心を優しく溶かすというのも実にいいシーンなのです。
あるいは、四女のことも三女のことも優しく包む実家とそれを守る長女夫妻の存在もいい。ふつうここには両親を持ってくるのだろうけれど、年齢のそう変わらない役者たちで成立させる一工夫。
物語の本筋とはいえないけれど、ちょっとした諍いをした会社経営者に酒屋の息子がコンビニ開業の資金を借りにいく、というシーンもちょっといい。事業計画もなしに単に(おそらくは無利子で)借りようとする甘っちょろい了見を粉々に砕く経営者はややヒールに描かれるけれど、云ってることは正しくて、暮らしていく人々、仕事をするということを地に足がついた感じで描く説得力があります。それゆえに次女が心離れ、という展開も実に優しい。
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