【芝居】「失禁リア王」柿喰う客
2013.9.8 14:00 [CoRich]
リア王の物語をぎゅっと圧縮して女優ばかりで演じ切る100分。17日まで吉祥寺シアター。キャストシャッフルの乱痴気公演や、ホンチキ・ランチキ両バージョンで全編放映のUSTREAM配信も予定されています。円柱の外周を階段状に削ったような体裁の舞台。ダンディなスーツやタイトなスーツスカートでキメた女優たち。トークショーによれば、「ゴッドファーザーとビッグダディ」という味付けの演出だそう。なるほど前者はアルカポネだったり葉巻だったり、ビリヤードのキューだったりという小物の雰囲気。後者はぴんとはこないけれど、ある種のヤンキー的な人情と損得のあれこれをトッピング、という感じにとれないこともありません。物語はずっと昔の欧州、体裁はアルカポネなのに、今の日本に引き寄せちゃってもちゃんと造型できるというのはちょっと面白い。
まさかのミュージカル仕立て、道化としてクレジットされる新良エツ子を中心としたオリジナルナンバーの数々(全13曲の歌詞は終演後にロビーで配られています)。一曲がわりと短めなのがよくて、それなのに濃密に歌詞を詰め込んでいるので、ミュージカルにありがちでアタシがどうにも違和感がある「物語が止まる」感じがまったくないのが、実に見やすいのです。もっとも歌が中心の女優ばかりの芝居となると宝塚という強敵が居るわけで、それを相手に回すとどうしても歌唱を中心のキャストとはいかないこの体制では全体のバランスとしては難しいところ。
根幹となる歌をほとんど支える新良エツ子は安心の歌唱、物語を運ぶというよりは不安を予兆させたり、俯瞰してみせたりという道化に設定したのがうまく効いています実によくて。リア王を演じた深谷由梨香は、ミュージカルという体裁の中ではこれに比べると正直、少々分が悪いのは否めません。が、傲慢な年寄りから、自業自得とはいえ弱り切った老人そのものに至るまで振り幅のすごさはさすがに看板を背負います。トークショーではそれがずっと素の感じに可愛らしくギャップにちょっと惚れてしまうのです。(や、それは芝居じゃないんだけど)。エドガーを演じた七味まゆ味はヒールっぽかったりひたすらにかっこいいという感じとは違う雰囲気で、弱さと実直を併せ持つような、実はちょっと珍しい感じの仕上がり。オズワルドを演じた葛木英はやけに殴られるキャラもコメディエンヌとして支え、終幕で一瞬現れる「はじめてのおつかい」がやけに可愛い。オンナと欲深を前面に押し出した造型の姉妹・ゴネリル・リーガンを演じた内田亜希子・杉ありさは常に対で見えちゃうのは痛し痒しだけど、シカゴよろしく格好いい。オルバニー公をぬいぐるみ抱えた気弱に造型した中林舞もまた素敵。グロスター伯を演じた伊東沙保もまた、もう一つの悲劇をきちんと背負うのです。
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