【芝居】「冒した者」葛河思潮社
2013.9.16 14:00 [CoRich] 三好十郎の戯曲(青空文庫)を長塚圭史の演出で。休憩15分を挟み200分。横浜のあと、松本は16日まで。吉祥寺シアター、仙台、新潟と巡ります。
有料パンフでしか役名が確認できないのはケチ臭いといえばそうだけど、サイトに載ってました(笑)
戦争のあと、古い大きな屋敷に身を寄せ合い9人がほどよい距離感で平和に暮らしている。3階に住む劇作家は妻を亡くしたあと戯曲を書くことができなくなって、誘われてここに住むようになった。
2階には株屋の父と進駐軍で働く娘と医者の夫と敬虔なクリスチャンである妻と大学生の弟、この家の元の主人が芸者に生ませた子の三味線の名手の女、1階にはこの家の管理人と広島で原爆に遭い目がみえなくなった遠縁の少女が住んでいる。この屋敷の未亡人は広島で寝たきりになっていて権利関係は膠着状態だが、住んでいる人々の何人かは何らかの関係がある。
ある日、3階の劇作家のもとを久しぶりに青年が尋ねてくる。演劇を志していたが、もうやっていないようで、恋人も亡くしたという。新聞の片隅の記事に彼のことが載っているのを株屋の男が気づく。
わりとフラットなまま進む物語は見慣れないと退屈する観客も多い気がします。商業演劇的な豪華キャストのギャップは否めません。年齢を重ねたからか、自分や大切な人のことを思い悩むことや、平穏な日常に突如現れるエイリアン的な外乱でそれまで見えていた風景と全く違う内面が露呈してくるという、少々露悪的なことに面白さを感じるようになっているアタシです。こういう物語をみて「わくわくするように面白い」と感じるのが健全なのかは迷いどころですが。
そう、平穏な生活にみえる毎日が、ごく表面的に踏み込まないことでバランスしていたこと、その奥には家屋敷の権利を手に入れようという思惑だったり、生きることや社会のことに思い悩んでいたり、金儲けや生活のことに賢明だったり。悪く云えばどす黒く奥底で渦巻く物がちょっとしたきっかけで「決壊する」ということが実に鮮やかに。その中でひとり、目が見えないからか凛として同じ姿で立ち続ける若い女が神々しく、美しいのです。
戦争に加わっていたもの、戦争にもしかしたら荷担したもの、あるいは巻き込まれていたものたちが敗戦を経てくるりと社会も状況も変わってしまって、まさに生きるか死ぬかの数年を生き抜いてきた人々だからそれがぎゅっと濃縮してきた、という背景があるからこそ、この過剰に濃密な物語に説得力があるようにおもうのです。
正直に云えば、長塚圭史の演出はワタシにはある瞬間にとても取っつきにくくなって、それ以来わりと苦手意識が先立ちます。が、最近徐々に面白く感じるようになってきたのは、演出が変わったのか、あるいはアタシが歳をとったのかわからないのでが、確かに気持ちに寄り添う感じになってきてるのです。
主役を演じる田中哲司は実直さ、思い悩む感じの存在感。外乱を演じた松田龍平はテレビ「あまちゃん」に出ている俳優をほぼ同時期に舞台で観て目を奪われるという久しぶりの体験。「姉さん」を演じた松雪泰子は気っぷの良さ、背中の美しさもじつに眼福。演出を兼ねて医者を演じた長塚圭史は冷たさを前面に感じさせる造型。医者の妻を演じた桑原裕子、敬虔なクリスチャンというのはわりと観たことない新しい役。初舞台を観ているあたしからすると、こういう役を演じる歳になったのか、というのは感慨深いのです。 株屋を演じた中村まこと 長い芝居の中盤をだれることなく引っ張り続けるちから。
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