【芝居】「hedge」風琴工房
2012.9.14 14:00 [CoRich]
金融と企業を舞台に男性の俳優ばかりの130分。18日までザ・スズナリ。
コンサルティング会社出身のメンバーが立ち上げた投資ファンド会社は買収した企業の業績を好転させた後に転売することで利益を得る日本初のバイアウトファンドだった。第一号ファンド案件として選んだのは製品は優れているのに海外事業や新規の自動倉庫事業が足を引っ張って業績が低迷するクレーン製造の会社だった。
ファンドと企業を巡る物語。企業再生で利益を得るファンドと、その再生案件となった企業の熱い人々を描きます。前半は、ファンド会社、買収される会社それぞれの人々と背景を描きつつも、頻繁に物語を止め、とっつきにくい金融にまつわる用語を時に丁寧に時に端折りながら説明を加えて、物語に引き込んでいきます。実際のところ、人間たちの物語が主軸なわけで、救いが必要な会社と、会社を金融で支えようというサムライたちの物語だ、ということなのでここの理解が付いていけなくても、その濃いドラマは楽しめるのですが、なんせ台詞にそういう言葉が出てくるのをひかかからずに楽しめるのは(しかもそれを、役とは離れた、役者自身もあまり知らない、という体裁で、教えてあげるという体裁を取らないのも敷居が低いし、解説用語集は倉ばれているけれど、それに頼らなくても物語をちゃんと楽しめるのは実にスマートな解決策。
投資の価値はちゃんとあるけれど経営がうまく行かない会社に手を携えるバイアウトというのは、きっとある種の教科書のような理想型で、うまくまとまりすぎているというきらいが無くはないのですが、特に前半で物語と(軽い語り口の)解説がたたみかけるような流れに乗ったアタシには120分を越える上演時間だってきっちりと楽しめるのです。 たとえばTBSのドラマ「半沢直樹」もまた、銀行の融資と企業という金融という背景で人間の想いを描くという意味で実はちょっと似た雰囲気があります。もっとも連続テレビドラマは見所満載の勧善懲悪として描くことで成功しているのだけれど、本作は全員が一つの目標に向かうという意味でヒールが存在せず、物語の運びというよりは、そういう意味ではプロジェクトX的にややドキュメンタリー風味の味付けで、ぎゅっと濃縮した熱い想いを生で見ることの楽しさ、だと思うのです。金融工学の現場でこれがリアルなことなのかはよく分かりません。それでも後半に待ち受ける人と人のぶつかり合いの物語、男の仕事の現場、をコンパクトに熱く語る物語に引き込まれるのです。
キャットウォーク風の2F部分を作り、舞台全体は扉で埋め尽くされています。役者が出入りする無数の扉それぞれがきちんと重厚な音を立てて閉まる、というのが、物語に厚みを与えるかのよう。舞台装置でこれをやるのはまっすぐコストに跳ね返るはずなのだけれど、それでもこれをやることが巧く効いています。
外資銀行出身のカリスマを演じた佐藤誓、重厚な年輪が舞台に説得力をああ得ます。コンサルティング会社からファンドを立ち上げたひとりを演じた井上裕朗は切れ者の印象で実に格好良く。もうひとりを演じた根津茂尚は丁寧さの先の優秀さということの説得力。血が通ってなさそうな男を演じた佐野功は優秀さその先にかいま見える気持ちのダイナミックレンジがいい。 邦銀出身の男を演じた酒巻誉洋は日本型のという立場がいい。若くて優秀な 金丸慎太郎 わかくて優秀な男なのにどこか軽いというのがいい。会社社長を演じた多根周作は確かににおぼっちゃんだけれどきちんと見据える気持ちがあるという説得力。優秀な営業職を演じた金成均 あ会社への熱い想いは時に怒り時に笑う感じが素敵なのです。エンジニアを演じた三原一太は前半の軽さからそのあと物を作るということに実直な造型。藤尾姦太郎も軽さと素直さが同居するバランスの良さ。万年赤字の新規事業の責任者を演じた杉木隆幸は年齢を重ね、しかし成功ではなかった人生が見え隠れするような味わいが実にいいのです。
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