【芝居】「God save the Queen」東京芸術劇場(芸劇eyes)
2013.9.14 19:00 [CoRich]
次世代の劇団を支援するシリーズ「芸劇eyes」の番外編(1)第二弾は、女性の作演による5団体。 16日まで東京芸術劇場シアターイースト。140分。
地下鉄の車内でいつも見かけていた彼はもう乗っていない。車内には鉄道博物館のジオラマを見に出かけているカップルが居るが地下鉄が止まってしまってちょっと迷っている。教習所に出かけるために乗っていた地下鉄で時々みかけた彼女は昔好きだった兄の恋人に似ていて「メトロ」(うさぎストライプ/大池容子)
巨大掲示板に書き込まれたメッセージは自殺予告をした若い男「クイズ君、最後の2日間」(タカハ劇団/高羽彩)
双眼鏡で向かいの部屋を覗いている女、一人暮らしらしい男が自慰行為を繰り返しているのをずっと覗いている。この部屋で同居している女は鶏もも肉を買ってきてソファーで食べている。向こうの部屋の男の自慰行為はニワトリに向かう「蒸発」(鳥公園/西尾佳織)
どっちが罪だと思う?と問いかけながらエロ漫画を交換する二人。新聞紙の包みを抱えたタヌキが寄ってきて。宝石貰うと嬉しいし、お金沢山あっても嬉しいし、ケーキ全部食べられちゃったら腹立つし「どこ立ってる」(ワワフラミンゴ/鳥山フキ)
寿司チェーンシスローで働いている女。同僚のエイコちゃんはエイと人間のハーフで、無口で客商売には向いてない。もうひとりの同僚で肌が白いイカちゃんはちょっとなまっていてどこからか拾われてきた。でも、どうもイカと人間のハーフで、しかも腹違いの妹らしくて「しーすーQ」(Q/市原佐都子)
女性の、とはいいながら「子宮で考える」とか「過剰な自意識」といういわゆる旧来の「女性らしい」作演とは異なるベクトルを持つ、というのが売りの企画。果たしてちょっとポエティックだったり、心動かされた何かを描こうとしていたり、少しばかり赤裸々な感じがあったり、どこか少女漫画的だったり乙女だったりと女性が描いているな、ということは感じさせます。 もっとも、わりと女性の作演を好んで観るワタシにとっては、もうこれはカッティングエッジというよりは小劇場では主流なんだとも思うのです(だから芸劇に数を揃えてショーケースができるってことだ)
うさぎストライプは、学校で使われるような椅子を並べかえながら地下鉄の車内での2つの出来事を3つの物語で描く趣向。互いに毎朝のように見かけたけれど知り合いじゃない男女のそれぞれの背景、好きだと想う気持ちを抱える女と、その女の外見にかつての恋心を思い出す男。二人の会話はなくて、確かに同じ時空に居るのに互いの思いはまったく別の時間軸を流れているというのが面白くて、ちょっと切ない。カップルのほうの会話は子供の存在はにおわせつつなぜか二人で鉄道ジオラマを見に行ってる途中の風景、好きな人への思いを募らせる感じが甘く、凛々しい。この物語に対してダンスを付けたり椅子を動かしてのムービングという動作を重ね合わせるのだけれど、正直にいえば、ダンスに興味が薄いアタシには、それに意味が見いだしづらいうえに、方向や動きによってセリフが聞き取りづらいというデメリットの方が強く感じられます。
タカハ劇団は2chで書き込まれ、おそらくは実際に自殺した男の最後の2日間(YouTube)の書き込みをモチーフに紡ぎます。タカハが描くものとしてはちょっと珍しい感じもありますが、意味があるかわからない運動部部活の風景や、芽が出るかわからない漫才コンビの練習を模した大量の言葉のスピードに押しつぶされそうになる応酬、クレーム受付のカスタマセンターの様子などをさまざまにコラージュ。大きな意思を入れると云うよりは意図を持ちつつコラージュを並べて見せることで自殺に至る何かを浮かび上がらせよう、という感じ。こちらは大量のブロックをテトリスよろしく積み上げ組み替えながらの芝居。最終的には天に昇る階段を思わせる大階段を出現させ、大量の青いチップ状のものを一度に降らせることで落ち、潰れて粉々となったようにみせて自殺が行われたことを示唆して一瞬で幕切れにするのは効果的です。もっともショーケースとしては迷惑千万な演出だとは思いますが。こちらも積み上げ組み替えだったり、テニスのラリーよろしく言葉を打ち合う風景など、身体を動かし疲労させてみせるという演出がされていますが、これが果たして必要なことかどうかは今ひとつぴんとこないのです。
鳥公園は二人の女の会話と、双眼鏡の向こうの自慰に耽る男のを覗いてのあれこれ。男の自慰行為や性欲は明確に語られることも多いけれど、女性が半笑いで双眼鏡を覗き、腰を振る仕草に女性自身の欲望も溶かし込んでいて、そういう意味での「男女が同じように感じること」を女性の側から描いているようでちょっと面白い。バイトの風景の抑圧された感じもどこかリアルさがあるし、覗いている女の「中二的童貞感(処女、ではなく)」な描き方もコミカルである種「肉食」な感じもあって印象的です。もっともその性欲の先にあるはずの命が一足飛びに食料になっているということ、その「産肉」という文字面の違和感(命を奪った結果の肉ではなくて、肉を作る、という感じの)を描いているのはちょっと面白い。同居している二人の女という描き方だけれど、一人の女性が頭の中でつらつらと考え続けていること(=引きこもっている女)と、外で稼ぎ社会的生活を営んでいる こと(=出て行く女)の両面を営んでいるという風に読み解いても面白いなと思うのです。
ワワフラミンゴはいつものような、とりとめなく物語が希薄に。彼女たちには珍しい広い舞台だけれど、走り回ったり金をサーキュレーターで舞わせたりと広さを生かすようなことと、小さく固まったしばいをそこかしこでやって、残りを余白のまま残しておくというのも、会話の妙な間合いとあいまって、コミカルを増幅する感じ。 タヌキはあからさまにで落ちだけれど、劇場の扉から出ている片腕を引っ張って表に出そうと四苦八苦したあと、それが居なくなってしまって、どこかからか連れてきた事情を知らない他人に同じ事をさせたがる(けれど思い通りにならない)という一コマがやけにおかしい。なんだろ、これ凄いな。歩くのとそれを追いかけて(足を滑らせながら)走る二人のぐるぐるで、「足が遅い」と一刀両断なのもやけに面白い。これができるのはこの広さゆえか。 一方で宝石を「貰ったら」嬉しいというガーリーな感じも、紙幣を風に舞わせて金だーっ、と叫ぶものなんか爽快感。
Qは、これもまた性と生命、という感じに物語を紡ぎます。会ったことのない妹に少々少女漫画っぽさはあるけれど、紡ぐ、何かがつながるということを繰り返し描いていきます。海産物が嫌い、という隣のオンナノコの造型がちょっと面白い。タコとまぐわう女などの春画をそのまま大写し、何か混じる感じは理解しづらいけれど、作家の頭に浮かぶ何かがそこには確かにあるのです。
すべてではないにせよ、繰り返しのモチーフや疲労する役者の身体と、それとは一見関係ない台詞で言動分離を一人の役者でやっているような芝居が目立ちました。スタイリッシュではあるし、若い役者が動いているというのはそれはそれは眩しい出来事なのだけれど、わたしにとっては実験というにはあまりに多く行われすぎていて、さりとてそれが流行っているということ以上にはうまく成功していると感じられたことがあまりないだけに、この流行がいつまで続くのかな、というのは少々暗澹たる気持ちにもなるのです。
各団体20分ほどの上演枠に対して、セットチェンジに5分以上。ショーケースなのでそれぞれを独立に味わうという意図かも知れないし、片付けに手間取る演出があるからということも理解できますが、正直に云うと、これくらいの長さならワンパッケージで売っている以上、他の芝居の余韻もショーケースの味として、集中力を持ったまま一挙に(あるいは休憩一回ぐらいで)観てしまいたいところ。20分づつぶつ切りにされてしまうよりはそういう意味ではMrs.fictionsの15minutes madeの方が見せ方に対して一日の長があるわけで、もうちょっとなんとかなるんじゃないかと、思うのです。
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