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2013.07.15

【芝居】「甘い坂」演劇裁縫室ミシン

2013.7.14 14:00 [CoRich]

松本の小劇場好きに訊くとこぞって勧めてくる、松本・諏訪で活動する9年目の劇団。新作はミステリーホラー仕立ての90分。14日までピカデリーホール。

坂の上には大学教授とその妹と家政婦が住む屋敷がある。異母兄妹だった妹が初めてこの屋敷を訪れた時に坂でひどく気分が悪くなった。それ以来、妹はこの屋敷の坂を下ることができなくなっている。
教授の専門は噂・デマの広がり方についてだった。屋敷を訪ねてくる女子大生に課せられたレポートも新たな都市伝説を考えるというものだが、まだイマイチだ。彼女に想いを寄せる大学院生は気持ち悪いほど追いかけてきているが、彼女が想いを寄せているのは教授の弟子だった。
近所の男の子が勝手に入り込んで遊んでいたりする屋敷だが、出入りの酒屋は金に困り、仕事がろくにできない男(か男の子)に屋敷の物を何か盗んできて自分で稼げという。頼まれた彼は屋敷の大木の根元にある大きな石碑のようなものを盗み出してしまう。時を前後して、妹が姿を消す。

タッパのあるピカデリーホールに二階建ての屋敷(の一部)と大木、屋敷に続く坂道や庭をコンパクトに作り込みます。この劇場の空間を埋めるのに苦労する劇団が多い中、軽々と空間をきっちりと埋める装置。この舞台にきっちりプロジェクションマッピングでオープニングや物語の要所を締めていて、完成度が本当に高いのです。ミステリーにフォークロア、そこにナンセンス風味というのは東京や大阪でやっていた芝居なら(4A.M.ぐらいの頃の)ナイロン100℃や、あるいは後藤ひろひとの時代(人間風車やカビ人間といった頃の)遊気舎の雰囲気。雰囲気こそ似ていますが、きちんとオリジナルの物語をオリジナルの演出で多彩な役者が作り上げていますから、フォロワーというわけではありません。アタシが面白いと感じるのは、最近あまり見なくなった気がする、私たちの日常の地続きのように見えてもきっちりかけ離れた、そういう意味では気合いの入ったきちんとした物語を作り出すのです。

一人の人間の悪意が無邪気なもう一人を介して起こした小さな出来事が、この屋敷にも、この屋敷から見える街の人々にも大きな影響を与えるという構造が実によくて、寓話的でもあるし、怪奇的でもあるのです。牛女(wikipedia)に端を発する噂やデマの拡散という骨格が物語に強度と深みを多角的に与えています。そこから大学生のレポートという体裁で、原宿で踊り狂う若者たちのシーンというツチノコ族や女性を追い回すのに姿がみえづらいスモーカーが(現実の竹の子族やストーカーに対して)ちょっと惜しい、というコミカルな作り込みも無駄に(←褒め言葉)しっかりしていて凄いのです。

噂に対して、あえて1977年というネットのない時代を設定とする絶妙さ。噂の拡散する速度が速すぎると大学教授が疑問を持てるという説得力。坂の上の屋敷から見える範囲の街の中だけで高速に拡散する噂、それが可能なのは身体から分離した何かになっている妹(しかもこの屋敷から出られないという設定が効いています)というのが鳥肌が立つほどに物語の凄みを感じさせるのです。

初参加という篠原鈴香はそれでも物語を背負うヒロイン。色気(序盤の坂に寝転ぶ処での胸元ったら。オヤジの感想ですが)も儚さもあわせもっていて、プロジェクションマッピングと現実を行き来する感じに説得力があります。教授を演じた星野光秀、落ち着いて喋る優しい教授という造型、屋敷に住んでいる、という説得力。音響デザインを兼ね、飛び道具のような「たくちゃん」を演じる大久保学は出てくるだけで客席を緩ませかっさらうのが凄いのです。

10月末の週末には、まつもと演劇祭への参加も決まっているこの劇団、楽しみで仕方が無いのです。

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