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2013.07.30

【芝居】「彼らの敵」ミナモザ

2013.7. 27 14:00 [CoRich]

長い時間をかけて取材し練り上げた物語は見応えがあります。8月3日までアゴラ劇場。120分。

週刊誌カメラマンの男、かつて大学生の頃に海外で誘拐され、それを曲解した週刊誌報道で世間からバッシングを受けた。それでも別の会社とはいえ、週刊誌カメラマンの道を歩んでいるのは、写真ならば少しは真実を伝えるから、とはいいながら。

ミナモザの舞台写真を撮影しているカメラマン・服部貴康が早大生のころにパキスタンのインダス川の川下りで強盗団に誘拐されたという経験をもとに、当事者とマスコミと世間の関わりを描き出すものがたり。骨格としては大学生の「無謀な冒険」をろくな取材の裏付けもないままに報じ、たとえそれが嘘だったとしても誤りもしない週刊誌などマスコミ、それを鵜呑みにする世間、それなのに、週刊誌カメラマンになる男、という感じ。

元ライターだった作家・瀬戸山美咲自身にだって降りかかってくるはずのマスコミ批判的な中盤まで。普通ならばこれで押し切りそうなところを、更に先に押し進めて、それでも報じる(=追いかける)側にまわって、それを続けていくのかという自問自答の後半は、作家自身の思索も混じるようで楽しい。ひとつひとつはもしかしたら紋切り型だったり、優等生的だったりはしながらも、おそらくは、カメラマンか作家のどちらかがきっと考えたであろうこと。アタシはもちろん追う側であったことはないし、幸い追いかけられる側であったこともないけれど、それでも報じる、ということに対して真摯に向き合う誠実な感じがいいのです。

ライターとは会っていないし、川下りに許可証など必要ないし、周りが制止したりはしてないけれど日本で発行された週刊誌が世間に信じられてしまった、という怖さ。ネットのない時代ですから、それはマスコミだけが持っていた特権的な力の怖さだったけれど、現在に引きつけて考えれば、それはもしかしたら私たち一般のネットユーザーだって自覚なく引き起こしかねないのだということ。この物語を観て、マスゴミと揶揄するのは簡単だけれど、自分たちだって、と自覚する力を試されているようにも思うのです。

読者(や視聴者)が知りたいと思うことを伝える、というのがマスコミの錦の美旗なのだけど、それは自分たちの枠組みの意向にそったもの、という大前提。伝える側を突き動かすのは(時には正義だったりはするのだろうけれど)伝えることが自分の快感を呼ぶのだからだ、という台詞には説得力があります。賞賛されることかもしれないし、世間を動かしたという実感かもしれない、あるいは単に承認欲求ということかもしれないけれど、マスコミに限らず、たとえばアタシが芝居の感想をブログに書き続けるということだって、この快感が欲しくて仕方ないからだ、ということは実に腑に落ちるのです。

その結節点となる喫茶店のシーンが圧巻。純粋に自身の良心に従ってこの場を作った大使館職員だけれど、判定する役割は引き受けられないわけで、結果、停滞するだけのシーン。認める気がない週刊誌側とここに希望を持って来た大学生。それが成立してきたのが週刊誌というメディアだし、それは一定の機能を果たしてきたけれど、その力がひとを傷つけるということの自覚のなさ、あるいは自覚しながらも人に寄り添う気などさらさらない、というふてぶてしさ。

土曜昼のトークショーによれば女性記者の潜入取材というのは作家自身の体験を交えているのだといいます。カメラマンと同じ週刊誌に在籍したことはあるようですが、同じ時期ではないので、このあたりはしっかりとフィクション。それでも、少々軽い感じのライターというのは、作家自身の姿に重なって見えるのです。それはある種、女を売りにしても、だったり、正論を吐く感じだったりにしても。演じた菊池佳南、インタビュー記事に添える写真の(ある種の)ねつ造のシーンは美しく、可愛らしく、セクシーで(というのも、トークショーに現れた作家のワンピース、ミニスカートに重ねてしまうオヤジなアタシです)ほんとうに目が離せないけれど、手紙の女の匿名で怖い一般人だったり、事実と違うことを(否定もしないけれど)認めもしないライターのふてくされ具合などの振れ幅がちょっとすごいことになっています。

外国人の兵士、大使館の職員を演じた中田顕史郎の安心感を与える大人の造型が好き。ほぼ出突っ張り の西尾友樹はきちんと走りきります。

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