【芝居】「遠くに行くことは許されない」セロリの会
2013.7.27 19:00 [CoRich]
作家ヒロセエリの10年前の作品をキャストを変えて再演。115分。28日まで「劇」小劇場。
兄妹たちが暮らしている家。4歳で川の近くで行方不明になった末っ子の捜索を22年間続けている。行方がわからなくなったときに一緒に居た近所の幼なじみたちも一緒になって続けている。見つかるまでは自分たちの幸せは後回し、見つけることが最優先なのだと信じて暮らしてきた。
ある日、次男が近所で同じ名前で年齢もぴったりな女を半ば拉致する形でつれてくる。長男は違うのではないかと思いながらも、長女や幼なじみは見つかったと大喜びする。最初は怯えていた連れてこられた女も、記憶のない子供の頃のことで、今の家族の中でも自分だけがすこし違うと感じていたこともあって、ここで暮らすことにする。
子供の頃にいなくなって、22年も捜索してきた家族、というところまでは信じられても、幼なじみも巻き込みつづけている、というあたりや、あるいは連れてこられた女を容易に信じ込んでしまう、という物語が構造として説得力を序盤で持たせられない、というのはちょっともったいない。あるいは、知り合いでも親戚でもない人が戸籍謄本を取る、ということは普通はできないわけで、ここの説得力の薄さも惜しい。
とはいえ、 あとからゆっくりと噛みしめてみれば、おそらくは、連れてこられた女が居なくなった末っ子だということを心の底から信じてはいないということは感じられるし、嘘でもいいから信じて、これをきっかけにして、ずっと同じだった時間の流れから逃れたい、新しい生活に移りたい、ということが彼らの気持ちだということもわかるのです。むしろその焦る人々を描くことこそが、この物語のポイントなのだろうと思うのです。
次男とその恋人が自分たちふたりの突破口となるべく頑張ったというかでっち上げる努力をしたのかはよくわからないけれど、それでも「そういう感じにの女」を連れてきて、それで逃げ切ろうとしたのでしょう。まさかその後に、その女がもしかしたら自分でそれを受け入れることになる、ということまでは想像しなかったと思うのです。 30前後まで封印してきた恋心というか行き遅れそうな焦りというのがみえてくるころ。作家がこのころにどういう状態でいくつぐらいだったのかは知る由もないけれど、そういう僻み混じりの焦りの感情こそが彼女の芸風の一つだと思っているのです。それが大好きだというアタシは相当に趣味が悪いことを自覚しつつ、説得力の薄さも認めつつも、でも、そういうことにすがりたい、という人物の気持ちに、アタシは寄り添ってしまうのです。
近所の幼なじみを演じた菊池美里(しかしこの週末、キクチ姓の女優の芝居を3本続けてみるとはw)、時にひがみっぽく、時にいたずらっぽい表情が印象に残ります。とアタシの観た土曜夜のトークショーで、懐いてるように見える平田裕香にちょっと無茶ブリするような瞬発力もいい。末っ子を演じた、その平田裕香は本当に顔が小さくて可愛らしく、こういう風に育ったらいいなという説得力。アタシは知らなかったけれど、ファンが沢山客席を埋めています。 もう独りの幼なじみを演じた小林さやか、幸せになりたくて、幸せをつかなという造型が好き。もともと好きな役者ですが、こういう行き遅れそうな焦りという役はあまりない気がします。 長男に恋心を抱く同僚を演じた遠藤友美賀は、この無茶な舞台設定のなかで、突っ込んだりしながら、観客の視座とを繋ぐ重要なポジション。主に笑いを使いながら、なんとかこの舞台設定に説得力を与えます。長男を演じた尾方宜久、誠実、まじめ、責任感という造型が実にあっています。
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