【芝居】「カルデッド」JACROW
2013.7.26 15:00 [CoRich]
自殺をめぐる4つの短編集。31日までOFF OFFシアター。120分。
半年ぶりに戻ってきた妻と娘。新築だった家の中は荒れていて、ここで夫は自殺した。「甘えない蟻 onother ver.」
駅のホームで電車にひかれてなくなった娘。両親はいじめによる自殺だと考えて学校に調査を求めるが、どうにも信用できない。両親はノートにあった名前の生徒に娘が強い恨みを持っていて、これがいじめの証拠だと詰め寄る「スーサイドキャット」
不動産会社営業の朝の報告会議。若い二人はそこそこの成果をあげているのに、転属したばかりの中年の男の成績がどうにもあがらないことを責め立てる課長。彼には朝から無言電話がかかりつづけていて苛ついている。今までの努力が足りず、更に頑張ることを誓約書に書かされた男を課長は応援するが。「リグラー2013」
樹海をあてなく歩く男。後をつける男が声をかける。自殺を思いとどまらせようとするが、会社を潰して妻を逃し自分も先がないと考えた男はほっておいて欲しいというが「鳥なき里に飛べ」
OFF OFFシアターを対面座席で構成。わりと立派な木材でつくられた部品を積み木のように組み替えながら、荒れた家の中、学校の応接室、会議室、富士の樹海といった場所を作り出します。普段のOFFOFFの客席(劇場入って左のブロック)が見やすい感じがします。
全体にネタバレの感じなので
「甘えない〜」、幸せだった普通の家族が突然の震災で離れ、疲労の色濃く自らの命を絶った男に残された家族、兄弟たち。 亡くなった人に対して互いを責め自分を責めという相当に救いも前向きさもないやりとりが続くのは少々ハードです。張りつめ、頑張り続けたことのオーバーフローが限界を超えたという救いのなさ。甘えて、弱気を吐けばもしかしたらそれだけで救われたかもしれないということを、娘のぬいぐるみに託したラストはこの物語の光明だけれど、それはすでに時すでに遅いということの救いのなさ。 正直にいえば、荒れた家の中というわりにはサンダル履きやヒールのある靴だったりというのが、ちょっとわからない感じはあります。震災半年後の石巻がどうだったか、という現実とは関係なく。
「スーサイド〜」、結局なぜ娘が命を絶ったのかの真相は明かされないものの、なぜ学校とは反対側の駅までいったのか、なぜ死ねとまでノートに書き殴っていたのか、ということがするすると繋がっていく感じはおもしろい。正直にいえば、わりと中盤でそれは見えてしまう感じはあるのだけれど、それでもなお、その真実に気づいても担任の男がしらを切り通す、ということ、この時の教頭の表情の微妙な感じも、もしかしたらその真実を知っているのではないかという怖さがあります。
「リグラー〜」は、こんにち結構ありがちな、配転や厳しい営業の現場、さらには親会社子会社のある種の格差を下敷きにしながら、結果として殺してしまったという自責を認められない男の物語。 正直にいえば、これもわりと早い段階でその構造は見えてしまうところはあるし、男の姿は見えているのにコーヒーカップは見えないというのはともかく、書いている手紙は見えていることになってるというのがちょっと厳しく。 あきらかにおかしくなっている課長に対して、それにつきあい続ける社員たちの理由を転職が近いからするのはちょっと巧い感じ。この延々と続く「茶番」を終わらせるのに身重の妻、というのは少々強引な感じはするけれど、それをもってしてもその繰り返しが終わらないというのは救いのなさを印象づけます。
「鳥なき〜」は、じっさいのところ、物語としては大きな流れがあるわけではありません。自殺しようとする人とそれを止めるゲートキーパーたち。それが繰り返され、続いているということは、「その人は死ななかった」という(少々消極的ながら)光明。 鳥ではなく、コウモリでもそれはいい、鳥の居ないところにいけば生き続けられるかもしれない、というのは、どうしても人は比べてしまうというなかで、その競争から降りてしまうというよりはルールの異なるところにいこう、という優しい目線。
熊野善啓の演じた担任の不敵な表情がちょっとすごい。 菅野貴夫が演じたとりなす先輩社員の優しい造型は役者の雰囲気によくあっています。 谷仲恵輔は印象に残る二役。気が弱くて、しかしまじめな元エンジニア。あるいは身障者。造型は賛否ありましょうが、(物語で必然というわけではないのが惜しい)発音がはっきりしなくても通じる言葉がある、というのはシンプルで強いメッセージの裏返し。 菊地未来が演じた二役、主婦も仕事を持つ妻もどちらもが実に自然だし説得力があって、惚れてしまいます。それが自責だったり疲れていたとしても。なんかね。二話の感じなんかとてもいいのです。 蒻崎今日子は眉間にしわ寄せ、ちょっと切れ気味という役が多いのはいいのか悪いのか。ぴったりあっているのだけど(ごめんなさい)
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