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2013.06.16

【芝居】「フェアリーノーツ」smokers

2013.6.9 15:00 [CoRich]

smokersとしては珍しいらしいコメディ。120分。9日までMOMO。

旧本社の一室で特別企画室と名付けられた一室で仕事をしている社員たち。会長直轄ではあるけれど、実体は問題のある社員たちを集めた部署で、総務から仕事を下請けている。ひとり真面目に働く男は40歳で室長となった上司を追いかけてこの部署に転属している。
ある日、この部屋に入社三年目の女性が転属してくる。前の部署でいろいろと問題を起こしている。40男はそれまで真面目一筋だったが、恋をして、彼女のことを書く「フェアリーノート」を作る。

同じ作家によるDART's(1 2, 3, 4 )はかなり追い込んできっちり作る印象なのに比べて、もう少し柔らかな印象のsmokers(1)、とはいえ、単独の公演は初めて拝見します。 コピー機とプリンタこそないけれど、ネットも使えて上司だって優しいいわゆる「押し込み部屋」というのは相当にファンタジー(もっとも、物語の上ではリストラ部屋とは違って会長の庇護の元、ということになっているのは説得力があるんだかないのだかわからないけれど、一定の説明になっています)。

淀んだ空気のこの部屋に吹く春風に気持ちが乱れ惚れてしまう真面目一筋四十男。彼女のことをもっと知りたい、と思ってもろくに話ができるわけでもなく机の上とか引き出しとか。かと思えば、あっという間に会話して、彼女自身の口からいろいろ聞き出せてしまう男も居たり。気が付けばこの部屋の男ども全員が彼女に首っ丈で、さまざまに調べ尽くしてみたり、守ろうと躍起になったりというのは中二的といえば可愛らしいけれど、知恵も技術もあるむさ苦しい男たちが調べればどうにでもなるという間違った万能感(しかも本人たちは、危害を加える気も恋仲になろうという気もなく、自覚がまったくない)は、正直、かなり怖くはあります。

が、その向こう側を用意するのがちょっといい。彼女が実は好きな人に別れを告げられていることを知った男たちが、彼女のために何でもしようと団結していく(特攻野郎Aチーム、あるいはルパン三世のあのチームよろしく)のもまた、男の子的なのです。

畳みかけるように、物語でコメディを成立させるというのは三谷幸喜やラッパ屋の世代にはたくさんあったけれど、今、特にいいオトナたちのコメディ、ことに会社を舞台にしたものは若い世代の芝居ではほとんど見られなくなっている気がします。その中でこの作家がこういうある意味ベタなコメディを描くということがちょっとうれしかったりもするのです。

転属してくる女を演じた根本沙織は、みんなが惚れるのを可愛らしさというアイコンで体現する説得力。 事務の女性を演じる岸本鮎佳は時にニヤリとする表情、声色のおもしろさが実にいいのです。出勤時には机の前で髪をぱさぁっとしたり、退勤時にはロッカーの前でポーズを決めるというのが可愛らしく、かっこいい。 室長を演じた木戸雅美は優しさ、厳しさ、あわせもつ、まさにおっかさん、という造型できちんと支えます。 ノートをつける四十男を演じた吉田一義は大まじめに大汗をかいて、照れたり頑張ったりという主役をきっちり。 軽口を叩いて女の子とすぐ仲良くなっちゃう同僚を演じた熊坂貢児も、その軽さの対比、杖をついて小難しいことを云う同僚を演じた島田雅之もまた、この部屋のちょっと淀んだオジサン感がめいっぱい。そういう意味では古き良き昭和、なノスタルジーといえないこともないけれど、芝居の中ぐらいはね、こういうのがあっても。

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