【芝居】「きれいなお空を眺めていたのに」こゆび侍
2013.6.23 14:00 [CoRich]
こゆび侍の新作。劇団史上もっとも長いという115分は濃密です。30日まで王子小劇場。
美容室を営む母と、一目惚れで結婚した教師の父。息子は引きこもってはいるが、両親と妹と叔母が部屋にやってきて毎日食事を一緒にしているが、ネット上でリアルでは会ったことのない恋人と逢うのに没頭している。叔母は主張もないのにいろんなデモに参加している。妹の同級生たちはは緑を守るためのクーポンを集める委員会活動に熱心で、毎日店を喪服姿で訪れる近所のおばさんは毎日知り合いの葬式に行っているのだという。母の親友はカリスマ美容師になっていて忙しい日々を過ごしている。
ある日、父と母は、もうすぐ世界が終わるんじゃないかという想いに囚われる。まるで蚊が人間の手につぶされるように、天から手のひらが降ってきて、つぶされるんじゃないかと考えるようになる。世間でももうすぐ世界が終わるということが噂になっている。
世界が終わるかもしれないとき。立ち止まって努力を辞めてしまう人、その中でも前向きに歩みを止めずに進んでいく人、そもそも終わらないように変えようとする人。物語の中で語られるように、この世が終わってしまうというばかりではありません。たとえば恋人だと思っていた人に手ひどく裏切られたり、これまでの生活を続けるのを辞めたいと思ったりと、それぞれにとっての世界の終わりは、どんな些細な日常にだってあるのです。そういう時にどういう生き方をするのか、というのをショーケースよろしくいろいろなバリエーションで見せていく群像劇として語られていきます。
実際のところ、この群像劇な描き方は、「沢山の人がそれぞれの考えでそれぞれに生きていく」ということをごく丁寧に、しかも優しい目線で描いているという気がするのです。もしかしたら世界が終わるかも知れない、というときにどう生きていくかということを描いて、その終わるかも知れない「世界」を描くのです。
がそれは「終わらなかったらどうする?」の一言だったり、あるいは人からの想いだったり、あるいは出てこいよという煽りだったりのさまざまで止まりかけていた人々の歩みが再び動き出すのです。ああ、なるほど、私たちは何があっても、きっと前に進んでいくんだな、という気持ちはポジティブさ一杯で、いままでの作風とちょっと違う感じがするのは作家になにか思うところがあるのかなと思ったり思わなかったり。
その中において、まったくぶれることなく毎日を暮らしていく、という人も居て。それは主役の夫婦だったり、あるいは毎日葬式に出かけているという近所のおばさんだったり。世の中が混乱したって変わらない人、あるいは変わらない気持ちがある、ということ。
オープニング、蚊がつぶされるように、一瞬にして世界が消えるというあたりが強烈な印象を残します。このシーンの強さが物語の世界を一瞬で作り上げることに、ワクワクとするし、見終わったあとにじわじわくるのです。
ネタバレかも
天から手のひら、というパーが降ってくるのだからそれに対抗するのはチョキだという発想が、カニにもピースサインにもつながっていったり、 武力としてのグーに対して、頭を撫でるためのパー、ジャンケンがモチーフのように繰り返しでちょっとおもしろい。かならずしも物語にきれいに収まりきらないのは惜しい感じもしますが、こういうモチーフが繰り返し出てくるのが実にいい。夫婦でするジャンケンが、ずっとずっとあいこのまま勝負がつかず、ずっとずっと続いていくのだというのも実にいい幕切れなのです。
全体として物語は静かめに進むけれど、どこかふぬけた声でゆるい感じのおかっぱガールズな同級生の存在が物語に緩急あるいは箸休め。そう見えてもそこに悪意が隠されているという造形もいい。演じた富山恵理子と島口綾のでこぼこっぷりがとてもいいのです。わりと鬱屈して一瞬の爆発力という印象の強い墨井鯨子は、終始高いテンションという珍しい役で、こちらもまた物語に緩急。 廣瀬友美はまさかの老女役、しかも一瞬たりともコミカルがないというストイックさがうまく機能していて、物語の重奏低音。看板な佐藤みゆき、終盤のドレスはもちろん素敵だけれど、物語全体では、地味な田舎の美容師というのが実にいいのです。些細なことを積み重ねていく日常、そこに嬉しい瞬間があるという表情がじつにいいのです。 アバターな彼女を演じた篠原彩、かわいらしさ前面押しに脳みそが喜ぶあたしです。
| 固定リンク
「演劇・芝居」カテゴリの記事
- R/【ホギウタ】ブリキの自発団P(1999.10.15)
- R/【寿歌】プロジェクト・ナビ(1996.09.21)
- 【芝居】「ヨコハマ・マイス YOKOHAMA MICE」神奈川県演劇連盟(2025.04.15)
- 【芝居】「フルナルの森の船大工」タテヨコ企画(2025.04.08)
- 【芝居】「ここは住むとこではありません」TEAM FLY FLAT(2025.04.07)
コメント