【芝居】「崩れゆくセールスマン」青年座
2013.6.22 14:00 [CoRich]
パラドックス定数・野木萌葱(のぎ・もえぎ)の書き下ろし。 青年座の年齢層の厚みが加わった120分。23日まで青年座劇場。
団地に住む老人たちをターゲットに現物の金は無いのに金地金を購入させて証券を渡すだけの現物まがい商法で業績を伸ばした会社。犯罪は自覚している営業マンたちは金が必要で、あるいは金を貰いたくて売り続ける。トップセールスの男が新たに契約した老女は30万円分を購入したもののそれ以上は買わない。半期のトップセールスの女は儲かったといって、更に買い増しさせることに成功する。
これだけ老人たちから金を吸い上げても会社に現金はない。クレームしてくる客も増えてきていて、そろそろ潮時だと誰もが感じている。
パラドックス定数の作演、野木萌葱は三億円事件など現実の事件を背景に敷きつつも、その史実の隙間に虚構を滑り込ませて作る物語が持ち味。今作が描くのは、1985年、会長が刺殺されるシーンがテレビで放映される幕切れを迎えた事件(とはいっても当時受験生のアタシ、実はあまり実感がないのだけれど)。あの派手な刺殺のシーンではなくて、騙し騙されのアングルの中で、もしかしたらあったかもしれない人々という虚構をきっちり描きます。
外部向けに書き下ろされたのを拝見するのは初めてなのだけれど、彼女が描く王道の語り口の物語を、青年座ゆえの役者(と観客)の幅の広さは、青年座らしいある種の見やすさもあいまって、深い深い奥行きを与えるのです。パラ定でこれを上演するなら、騙す側の会社を描くのが精一杯になるところを、騙される老人たちを現実に目の前に出せる、という強み。
騙す騙される。悪いことは悪いこととして、しかし単に騙す側を糾弾するでも、騙される側を憐れむでもなく、それぞれの人間がそういう風に生きてしまっている、という意味で人々を描くドラマなのです。騙す側のセールスマンたちにだって葛藤はあるし、稼がなければいけない事情や欲望もある。あるいは騙される側にだって欲をかくという心の隙も、あるいは自覚しつつも騙されるという(少々複雑な)心持ちがあるというもう一歩先をも描くことで、単に一方的な被害者というわけではない深みを与えるのです。
トップセールスを演じた石母田史朗は優しげな表情と、時に冷徹な造型にぴったり。今は駄目なセールスマンを演じる嶋田翔平や、金を至上とするセールスレディを演じた野々村のん(バブル真っ盛りなスーツも髪型も実にいい)、それぞれのバランスが実に良くて。その上司を演じた矢崎文也は犯罪をおかしていながらの正義感、社長を演じた小豆畑雅一はコミカルを載せつつも激情で、という相反する造型がわりと殺伐しがちな物語の中で妙に人間くさく見えて楽しい。騙される老人を演じた名取幸政の好々爺から豹変する金の亡者っぷりも凄いけれど、何より凄いのは、ずっと可愛らしいおばあちゃんで有り続けた老女を演じた山本与志恵、判ってて騙されるというまあ屈折しまくった人物なのにちゃんとリアルで居続けるということの凄さなのです。
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