【芝居】「彼の背中の小さな翼」キャラメルボックス
2013.5.26 19:00 [CoRich]
真柴あずきの単独脚本・演出としては初めて。久しぶりに銘打たれた「アコースティックシアター」が嬉しい105分。本公演中の「ナミヤ雑貨店の奇蹟」の休演コマを使用して31日までサンシャイン劇場。
フリーのイラストレーターとして働く30代の女の元に父親の訃報が届く。子供の頃に出て行ったきり、いちども会っていないし、どこに住んでいるかも知らなかったが、漁港で知り合った漁師の世話で住むようになっていたという。遺品整理求める漁師の申し出を断ろうと思ったが、姪は一度も会ったことのない祖父に興味があるというので一緒に行くことにする。
漁港の見えるアトリエ付きの家に、父は5年ほど住んで絵を描いていたが、1年ほど前から、ひょっこり現れた若い男を同居させるようになっていた。この若い男も過去のことを語りたがらない。手ほどきをうけるうち、絵の才能に気づくが、焦ることなく、書いてみろといっていたらしい。
遺品整理をするうち、訪ねてきたのは、その同居していた男の兄と名乗る男だった。
一人二役の部分はあるにせよ、キャラメルボックスでは珍しい五人芝居。家族を放り出して絵描きとして放浪した父親がどうしても許せない娘と、母親からは捨てられた若い男とその兄との秘密の関係を軸に。人が人を想う気持ちを繊細に描くアコースティックシアターだけれども、どちらかというと、拒絶する気持ちが溶けていくことを豊かな質感で。
もう一つの軸は 何かを表現せずにはいられない気持ち、それを生業にしたいという気持ち、そこにある才能のあるなしというある種の残酷さ。表現を仕事としている人にはなじむ感覚なのでしょう。アタシは才能のあるなしよりも、覚悟して続けて行くこと、という作家のさらなる決意表明のようでまた嬉しく。
正直に云うと、物語の二つの軸に加えて、たとえば子供だけで育つということだったり、生きていくということだったりと、他にもいくつかの軸があって、追いかけるのに少々戸惑う感じが残ります。
アコースティックシアターと云えば、の坂口理恵はコミカルから拘泥までしっかり。物語の主軸を担います。 姪を演じた清水由紀は、小説をということを一応背負っているけれど、実際のところ物語を大きく背負っているわけではありません。が、全体に内向きな屈折が全体の雰囲気となるこの芝居の中で、若い彼女が好奇心いっぱいで質問をすること、若い正義感を存分にぶつけることで物語に力強い推進力を与えるわけで、課せられた重大な役割をきっちり。 父親を演じた大家仁志(を、松本の人なんだ。なんか嬉しい)は35歳の娘の父親としては、あまりに若すぎないかという気がしないでもないけれど、静かな落ち着きがゆったりと。 兄を演じた岡田達也は陰を全面的に背負います。あきらかに「薄っぺらに嘘をつく」というシーンの完成度が高すぎて、あからまさに嘘というより、何を喋ってるんだこの人、とすら感じてしまうのはこのバランスでいいのかは観ていて迷う感じはありますが、それがきっちり演じられるという確かなちから。 弟を演じた上鶴徹は、アタシは不勉強にして初見です。イケメンでこの座組の中だって対等にやりきってしまうのはたいしたもの。
| 固定リンク
「演劇・芝居」カテゴリの記事
- 【芝居】「地上の骨」アンパサンド(2023.09.18)
- 【芝居】「濫吹」やみ・あがりシアター(2023.09.16)
- 【芝居】「蒲田行進曲」おのまさしあたあ(2023.09.15)
- 【芝居】「SHINE SHOW!」東宝(2023.09.10)
- 【芝居】「オイ!」小松台東(2023.09.08)
コメント