【芝居】「磁界」浮世企画
2013.5.18 19:00 [CoRich]
75分。22日まで新宿眼下画廊地下。幅の広い劇場を横長遣いなので、座る場所によって印象が異なる機がします。アタシは入り口に近いところの角に座ったけれど、もすこし奥のほうが見やすい気がします。客席の入り口も芝居の空間の一部なので、遅刻厳禁。
岡田という男が居なくなった。毎日のように通い店員と顔なじみになってるコンビニも、バイト先のレストランにももう姿を見せなくなって何週間も経つ。女が探してまわっているが、同級生で成功していて見下してくるような男にすら借金をしているらしい。
当日パンフにクレジットされた、しかし登場しない岡田という男をめぐるさまざまな人々の物語。彼を捜している町工場勤めの女だったり、彼と同級生で成功している男の華やかな修羅場だったり、バイト先のレストランだったり。点描されるシーンを居ない男の話でゆるやかに繋いでいるけれども、じっさいのところ、その男が物語の幹というよりは、それぞれの場の人々の物語を主軸にして描いています。タイトルの「磁界」は見えないけれども、居ること(あるいは居ないこと)によって周りに影響を及ぼしているということかしらん。磁力じゃなくて磁界、なるほど。それでも、それぞれは別の話に見えるけれど、背骨を(登場しない)岡田という男がバインダーのように繋いでるので、パッケージにちゃんとなっているのです。
アタシにも実感を伴ってしまうような点描のさまざま。 たとえばコンビニのレジに並ぶ二人の店員の男たち。バイト歴の長い大学生と入ったばかりの初老に近そうな。唐揚げを揚げすぎて怒られるというかバカにされる初老の男の立場こそ、アタシが近頃感じる感覚に近いのです。
あるいは、 チェーン店らしい飲食店バイトの調理場の男とバイトの女二人、店長という若い男のバランスオブパワー。先輩の女は調理場の男に惚れ、調理場の男は後輩バイトに惚れ、店長に厳しくあたり、厳しく当たられた店長の優位に立てるとほくそ笑んだ先輩バイト、あるいは元気づけて「しまう」後輩バイト、実はバクウンが強い店長を振り返る先輩バイト。虚勢の張り方だったり、口説こうという気持ちだったりと、女性の作家なのに実際のところ男目線が印象に残るというのは珍しい気がします。めまぐるしく、恋心が支配する場、という印象。
男の部屋で床を拭く休日恋人の女、バイトの現場ではあれだけスターなのにこの扱い、売れない女優がCMディレクタの彼ということをバイト先で自慢をしたと聞くと男は女に厳しくあたる、という妙なバランスが面白い。某掃除機をネタにする、というのは面白いし、実は彼女が可愛らしく見えて( ということは、かなり差別的な感覚を自分の中に発見することになってこれはこれでヘビーなのだけれど)アタシは好きなシーン。
町工場、先代の頃から働いている女、今の社長の危機感のなさ、頑張る気持ちのなさに腹立たしくもあるけれど、工作機械の勉強したいと思う気持ち。訪ねてくる男はコンビニの初老に近い男。探している男のことを伝えにくる。初老の男の前職のひっくり返しも面白くて、ここにくる理由というオチも鮮やか。
CMの会社、大勢で雑談のように遊んでるような会議。なるほどCM会社っぽい。10人のキャストのうち8人を動員して賑やかす、というのが巧い。岡田という男が小説で一定の成功を収めて映画になるという時間軸の流れ、そこからの終幕のオチがまったくもって、ダメなオトナで実にいいのです。
全体にはほぼ素舞台。木の折りたたみ机を組み合わせてコンビニ、レストラン、工場の一室、CM会社の会議室、あるいは男の部屋をきっちり。コンビニはレジこそ用意するものの、店頭の商品を天井からちょっと吊っておくだけというあっさりとして、十分なアイディアも巧い。
どちらかというとKAKUTAではか弱い印象があるヨウラマキのなかなかに力強い女子、という雰囲気を演じるのを初めて観る気がします。岩田裕耳の絵に描いたような業界人の造型が楽しい。前回に続いての鈴木アメリ、バイト先輩女子が店長に勝てるとほくそ笑む表情が絶妙。村上航のオジサンなペーソス感、なんか深みすらあってしっかりと締めます。小劇場女優、というのが出てくるのは少々安易な気はしつつも、山脇唯が床掃除というシーンがなんか健気に可愛らしく。
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