【芝居】「横濱短篇ホテル」青年座
2013.4.28 14:00 [CoRich]
横浜の老舗ホテルを舞台に5年ずつゆるやかに繋がる物語を7編で構成する160分(休憩15分)。28日まで紀ノ国屋ホール。
1970年、ホテルの一室、映画の主演女優が決まらずに煮詰まる監督とプロデューサー。そこに突然現れた若い女は怖い男に追われているので匿ってほしいという。部屋の主が映画関係者だと知り、高校の演劇部だという女を門前払いにしようとするが、あまりに熱心に頼むので、演技を見ることにする。
「ヤクザに追われて」
1975年、ホテルのラウンジ、恋人と待ち合わせたのに3時間近くも待ちぼうけを食らっている男。隣のテーブルでも待ち人がなかなかこない女に声をかけるがあっさりと振られる。女の待ち人は人気の映画監督で、シナリオを読んで貰うが、まだまだだと一蹴され、ラウンジの他の客を観察してみろという。「人間観察」
1980年、ホテルの一室、野球選手がコーチを部屋に呼び出す。成績が振るわず、やっと戻った一軍だが、ファーム入りを告げられるた選手は、コーチが若い女と不倫関係をばらすといってゆする。
1985年、ホテルのラウンジ。夫と別れた人気女優は誕生日を若い恋人と過ごそうと考えるが当日になって振られてしまう。声をかけてきたのは、中学の同級生で今は農業高校の教師をしている冴えない男だった。「初恋の人」
1990年、ホテルの一室。散らかり放題になっている部屋に居る女。女は実家の工務店を継いで馬車馬のように働いているが、年末の数日だけは籠もってシナリオを書くことにしている。誰に読まれるアテはないが、この時間だけが自分が生きてい時間だと感じている。クリスマスイブ、別れた夫が三年ぶりに訪ねてきて、よりを戻したいと云うが。「離婚記念日」
1995年、ホテルのロビー。農業高校の教師が10年前に再会した女優と待ち合わせている。そこに現れた若い男女は、待ち合わせの相手の息子とその恋人だといい、少し遅れるのでそれまで相手をするように言いつけられたという。遅れてきた女は、喪服姿だった。「プロポーズ」
ホテルの一室。売れっ子の脚本家となった女とよりを戻したらしい夫。女は高校の演劇部で一緒だった親友である女優の三回目の結婚式に出席しようとしている。あの日監督のことが先に好きだったのに、怖じ気付いた女は、演劇部の女友達が先に部屋に乗り込んで、監督に見いだされてしまったのだ。あの女優の人生は私のものだったのだ、というが。「ネックレス」
MOTHER・フユヒコ・赤シャツといえば、マキノノゾミ×青年座の評判の組み合わせ(赤シャツだけ、拝見したことがあります。ゴー泣きの凄さ)。そのタッグの新作。 マキノノゾミの12年ぶりの書き下ろし新作、という触れ込みなのだけど、これは「青年座への」書き下ろしが12年ぶり、ということがチラシではわかりにくいのは少々誠実さにかける感じ。(たとえば3年前に短編の他劇団への書き下ろしを観ています。) 5年おきに25年+αの7編。ラウンジと客室という二つのセットを切り替えながらというのは凄い。 ゆるやかに繋がり、しかも確かに前に進んで時を重ねている人々。高校生が人に出会い、仕事を決め、焦ったり、恋をしたり、別れたり、安心したり、憬れたり。再会したり、時を経て告白できたり、でも、いい歳を重ねてきたということを優しく描くマキノ節。
「ヤクザ〜」は正直に云えば、早々に入ってきた女(ハルコ)が企みを持っていることはわかってしまうのだけれど、それは大きな問題ではありません。この芝居全体を貫く物語の序章が後で効いてきます。女を演じた香椎凜は女子高生と(彼女が演じる)大人の女というダイナミックレンジの凄さ。
「人間〜」もまた、終幕で効いてくるもう一つの柱の序章だということは見終わって初めてわかりますが、序盤ゆえに圧倒的な爆笑が多いというのも巧い。軽い男にナンパされても軽くいなす女(フミヨ)という序盤、人間観察をしろといわれてさっき話した男の知りうる情報でズルをするというのも楽しいけれど、終盤、競輪の予想をしている老人のバックボーンをチャップリンの街の灯(大好きなのだ)よろしく花売り娘と再会したという圧巻のハッピーエンドで客席が沸き返る千秋楽なのです。
「脅迫」はこの7編の中では唯一ハルコ・フミヨが登場しないこともあって、少し浮いた感じで違和感がなくはないのです。生きていくために脅迫めいたことをするというのも、第三者には叶わなくなったことが明白な希望をきちんと本人に伝えるというのも、伝えられた本人はそれを感動すらして、いい人だと思う、というのがちょっと大人な感じ。
「初恋の人」は、人気女優と久しぶりに会った中学生の同級生。田舎から出てきていて木訥な男と、華やかな女。同級生が声をかけてくれたということも嬉しいし、なにより、女優になった私ではなく中学校の頃の私を覚えて居てくれた、となれば恋に落ちても不思議ではないという説得力。
休憩を挟んで「離婚記念日」 成長したハルコが初登場。作家が成功に繋がって、だから元夫が訊ねてくるというのがいい雰囲気で、終盤でやり直す雰囲気なのが実にいいのです。
「プロポーズ」は中学の同級生が再び再会。喪服で現れる女は大切にしてきた人を亡くし、男はこれで入院するということを告げずに去るつもりだったのに、つい云ってしまう。そこから二人が急速に近づくということが嬉しく、哀しいのです。息子とその恋人が来て、ちょっとお小遣いの話をして金銭感覚の違いがある、けれども、息子がまっすぐに育っているっていうことが嬉しいのです。
「ネックレス」は、ここに至って二人の女の18(つまり、「ヤクザ〜」と「人間〜」)からの人生、時々付いて離れて、もう何十年も経って、 それでもお互いの人生を今でも楽しんでいる、もちろん亡くなっている人も居るし自分だって老いていても、それでも楽しいということ、自分の気持ちに寄り添ってくれるのです。
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