【芝居】「マリア」Straw&Berry
2013.4.20 14:30 [CoRich]
国分寺大人倶楽部の河西裕介と、佐賀モトキ、金丸慎太郎によるユニットの第一回公演。130分。23日まで王子小劇場。いくつかのステージで「おまけ演劇」が10分間設定されています。
バンドをやっている男の部屋に、暴力をふるう夫から逃げて転がり込んだ人妻。男はすっかり人妻に甘えきった日々、曲が書けなくなっていて、バンドのメンバーは気を揉んでいる。ある日、夫が家を訪ねてきて妻を連れ帰ろうとするが、事故がおき、バンドは事実上の休止状態になってしまい、人妻は両方と別れることを決める。
甘えている、というよりは気持ちが弱くて、自分に極端に自信がなくて、認めてもらえる女に対してずぶずぶとはまりこんでしまう男を描きます。この男一人を中心に据え、もっと救いの無い絶望的な「瞬間」を描くことは作家の作風というか、ものの見え方なのだろうと思います。作家個人を知るわけではないのだけれど、twitterのつぶやきでみせる寂しさや時折はしゃいでみせる感じは、どこか主人公に重ねてみてしまうのは、観客の気楽で無責任な見方。
いくつかのステージに設定された「おまけ演劇」は、制作でよく見かける会沢ナオト氏をフィーチャーした、正義の物語。ユルユルで、意識的な棒読み台詞で、コミカルに徹した10分。確かに物語の余韻を著しく損なう、という当日パンフでの警告はまさにその通りだったりしますが、本編があまりにやるせない物語でもあるので、こういうバランス感覚また正しい感じはします。
ネタバレかも
優男で、一人の女だけではなく、やさしくしてくれる女すべてに同じようにはまりこんでしまう男。それは序盤の年上の女だけではなく、ファンとして近づいてくる女も、終幕ではさらに禁断な領域まで踏み込んでしまう感じ。 「なぜみんな私を残して居なくなってしまうのか」ことに対する男の焦りと、それを解決する手段が「愛してもらえるように振る舞うこと」でしかない、というのもまた、絶望的な感じではあります。前回の根本宗子での公演にどこか似た枠組み(立場が違うけれど野田裕貴が両方に出ているというのもなんか繋がりを感じてしまう)なのだけれど、根本宗子が実はどこか支え合う依存を描いて俯瞰して見せているのに対して、あきらかに片方が一方的に依存していて、あくまで今作は弱い男の側を中心に据えて描いているように思います。
喫茶店側で別れた女が過ごす日々も、バンドの人々のその先についても、あくまでも一人苦しみ続ける男のコントラストを強烈に印象づけるため、という感じ。終幕近く、男が一人部屋で絶望の叫びを上げるシーン、その反対側では生命の誕生というコントラストはあまりにも残酷でやるせなくて、年齢も立場もずいぶん違うけれど、その孤独も自信のなさも、あるいは隙あらば女性に甘えたくなっちゃう気持ちですらも、なんか自分を重ね合わせてしまうのです。もっとも劇中の彼のようにモテるというわけではないのだけれど(泣)。
舞台を左右二つに分け、最初は一つの家だった場所を、途中で二つの場所に転換してみせるのはちょっと驚きます。もっとも、最前列上手端に座ってしまったアタシは舞台真ん中にあるステレオセットの陰で見えないシーンがいくつかあるのは(じっさいのところ大きな問題ではないのだろうけれど)、男の苦悩や母親の表情が見えづらいのが残念な感じ。
気弱な男を演じた野田裕貴は童顔な笑顔と、あくまで甘えに徹する造形は、モテそうな彼の見た目の雰囲気によくあっていて役柄に説得力を与えます。年上の女を演じた百花亜希はまっすぐまじめで、暴力を振るう夫すらも、受け入れてしまうような包み込む優しさをしっかり。年上女ゆえに男の頼りなさをかわいいとはおもいながらも、自分の人生設計に対してパートナーたりうるか、という率直な悩みを滲むように描きます。ファンの女を演じた鮎川桃果は、男と同い年ぐらいの感じで、友達感覚のフランクさ。女によって照らされる男の見え方が変わっていく感じがあるのに、「甘えきっている」という点において一緒なのは、それが男のほんとうの真ん中の部分なのだろうと印象づけます。喫茶店のマスターを演じた金丸慎太郎は、軽さめいっぱいだけれど、きっちり稼ぎ、女をしっかり支えるという「大人」を体現していて印象的。母親を演じた岩本えりは、あくまでも息子を信じ続けるというある種おばちゃんの入った母親の姿をしっかりと、実はもっともリアルな感じで描きます。暴力を振るう夫を演じた岡野康弘は、手を挙げそうになる気持ちを抑えている感じが逆に怖さを印象づけます。少々出番が少ない感じなのは残念。
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