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2013.04.09

【芝居】「ブラック・サバンナ」世田谷シルク

2013.4.7 13:00 [CoRich]

世田谷シルクの新作。115分。14日までアトリエ春風舎。

混乱の中、何がどうなったのか判らないまま、互いに殆ど知らない人々が川の近くに放り出される。小舟に乗って人々は徐々に集まり、小さなコテージを見つけて生活を始める。忍び寄るのは、噂の「来訪者」の姿か。

SF仕立ての枠組みに印象的な群舞を組み合わせ、ある種の極限状態の中で、生きることあるいは生きるために命を奪い食べることを描きます。そういう意味では世田谷シルクらしいアイテムがぎゅっとつまった一本になっています。シーンを細かく組み合わせていき、モザイクから徐々に浮かび上がるように全体像が見えてくる前半の見せ方の軽やかな巧さ。対して後半物語の描き方はある種の固さが残るような気がしないでもないのですが、作家の「命」に対する思索の整理されない感じが実は荒削りなままそこに置かれたようで、実はちょっと興味深い感じもあります。

ネタバレかも

隕石の衝突で殆どの人間は死滅し、そのときいくつかの特定のエレベータに乗っていた数人だけが助かる、という前半のぶっ飛んだ設定が実に面白くてちょっと好き。関係ない人々が突然同じ場所に放り出されるという設定の効果もあるし、なによりそのエレベータの存在を特定して、弟を放り込んで助けると決めた姉が宇宙飛行士だというのが明かされる後半も、ここまで行けばルパン三世のごとく荒唐無稽が楽しい。

クルマに引かれた猫、殺された動物、愛護センターというもの、絶滅危惧種に至ったトキ、目の前の動物の命を奪い食べると云うことを点描してきた物語は、中盤で今までは食物連鎖のループの外側に居た人間自身さえも、「食べるために命を奪われる存在」なのだと相対化してみせる流れも鮮やか。食物連鎖の枠の外にある人間が他者に食われることが身に迫ってきて初めて考える、喰うことと生きることの繋がり。それは宇宙から地球を眺めて初めて地球という環境に思いを馳せるということに似ているよう。地上では覇者となった人間だけれど、ひとたび外界からの「来訪者」にさらされれれば、どうにも心許ない存在なのだということ。もっともそこまで風呂敷を広げたのにあっさり獣に襲われるというのはちょっと馬鹿馬鹿しくておもしろい。人間かもしれない肉を目の前にして、それでも私は肉を食べるのだという自覚的な決意表明を語る女のシーン 。生きること食べていくことのシンプルな描き方。

姉を演じた木下祐子は全体にポップな流れになる物語のなかでずっと静かに物語を刻む安心感。前半のエレベータの荒唐無稽を語るシーンの妙な明るさが今までにない感じで楽しい。オチに繋がる美しさの説得力。保険員を演じた荒木秀智のある種の軽さと受験生を演じた細谷貴宏のコントラストのバランス。妻を演じた若林えりのパワフルなヤキモチが可愛らしい。浮気を咎められる岩田裕耳の慌てふためきなコメディアンも楽しく、コックを演じた三嶋義信は落ち着いた説得力をきっちり。センター員を演じた外村道子のきりとした美しさも印象的。

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