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2013.03.25

【芝居】「2日目だから話かけないで。」第6ボタン

2013.3.24 13:30 [CoRich]

お好み焼き屋で定期的に続ける、ワンフード・ワンドリンク付き公演の3回目。85分。24日まで十条・「うまいもん屋」。

レストランの深夜のバイトたち。客が来るまでの暇な時間を埋めるための恋愛四方山話。

二日目の、という女性固有のことをキーワードとしてちりばめ、恋愛を巡る惚れた、仕掛け仕掛けられな若い恋愛事情、という体裁で描きます。女からわざわざ誘ったのにままならなかったり、男は経済力戸ばかり言い放ちながら二次元にはまってたり、別れた男への未練が断ちきれなかったり、離婚したばかりなのにすぐ次を求めたり。「二日目」は時にままならなさ、時に普通はやらない思い切った行動、時に抜けられない怠い感じ、時にタイミングの悪さ、のように言い訳に使われたり、あるいはルーレットおろしく不確定な要素として使われます。

登場人物たちの誰もが恋愛至上主義な感じで、思い悩む男女たち。一つ一つは傍目には些細なことだけれど本人たちには大問題。その話題だけで毎晩でも話し、笑い、泣けるのは若いよなと切って捨てるのは簡単だけれど、誰にだって程度の差こそあれ、どこかにフックしそうな様々が散りばめられています。作家によればいろんな人からのインタビューによって組み立てたキャラクタやセリフのようです。デフォルメは強めで奥行きという点で少々物足りない気はするのだけれど、男だって女だって実にまっすぐで、作家の優しい視線。

恋愛がうまくいかないとおもしろおかしく語れる女たちの物語が実に好きなアタシですが、今作では むしろ、もうすこしシリアスに別れを意識させるシーンこそキレを感じます。たとえば元カレへの想いが断ち切れない女、電話一つに期待をしてしまって、それでも普通に話しているつもりなんだけれど、別れたオトコにしてみれば友人を超えた恋人の距離感に近づかれることへの嫌悪。たとえば、彼女と別れることを決めた男、友人たちや言葉ひとつ、彼女のある種の下品さという価値観の差が決定的な溝になること、が印象的。

酔った勢いで男を誘いながらもままならない女を演じた大藤由佳は、普段はちょっと怖いけれど酔って可愛らしくのツンデレのダイナミックレンジが愛おしい。男の太ももを抱き枕のように抱え込んで「これください」と関西弁というセリフの破壊力が抜群で。それに翻弄される後輩を演じたヒロトは男の子っぽさ全開、終盤でのもう一度のチャンスでの笑顔が、ニヤリではなく嬉しさが溢れる感じなのか可愛らしく。

地道に公演を重ねてきた飲食店での公演。ワンドリンク・ワンフード込みで追加料金無しのワンパッケージの安心感とか、客を間違いなくキャストが相手して食事の時間を作るという流れはシステマチックになり熟成が進んでいます。もっとも、フリの客だと少々寂しい感じになるおそれはあるけれど、まだキャストの手売りに頼るという段階ということかもしれません。

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2013.03.18

【映画】「演劇1」「演劇2」(想田和広監督)

2013.3.17 14:00/17:00 [映画公式サイト]

劇作家・平田オリザ(wikipedia) と青年団(wikipedia)を細やかに観察する視点つくりの「観察映画」として成立させています。想田和弘監督(wikipedia)の手法のおもしろさ。

働く私」 「火宅か修羅か」 「サンタクロース会議」 「冒険王」 「東京ノート」 「ヤルタ会談」 「砂と兵隊」 (1, 2)

青年団をずいぶん観続けているアタシには、むしろ見慣れた劇場、見慣れた役者たちをずっとずっと(しかも編集されて見やすい)観ている幸せな時間。もちろん平田オリザという超人的な「主役」の面白さなのですが。

「演劇1」は全体として今の演劇の現場のこと、あるいはそういうことをしている人々のこと、あるいは演劇というものの可能性を感じさせる前向きな仕上げ。一本だけならこちらを。ヤルタ会談の稽古のシーンで始まり、縄の無い縄跳びで演劇ということを説明し、平田演出の特徴(秒数を数えるとか)、目黒の中学生向けのワークショップ、サンタクロース会議、入団希望者との面接。ツアーの仕込み、上演、メンタルケアの講演、ペルソナのことと、ちょっとしたサプライズ。

300時間に及ぶ撮影は時にアゴラ劇場という場所、近所の猫、井の頭線、商店街を挟みこんであって、見慣れた風景が楽しい。

見えない縄で縄跳びをする「お約束」を一人それを無視して横切ってしまえば場が成立しないというのが面白い。あるいは入団希望者と真剣に向き合う面接で、集団と一人一人の行き先をきちんと考えるということ。ツアー仕込みは、相当に細やかに作り込む舞台や照明を執拗に描くのもなかなか見られない風景で面白い。

不登校を話題にした講演で、子供たちに「じぶんらしく」を求めつつも大人になるといくつもの顔を持つ、という「ペルソナ」の話しも面白い。その後に続くサプライズの場面もまた、たとえばアタシたちが職場とか生活圏の中でやっているのと同様に、劇団という中でそれぞれの役割を演じているのだ、という風に読めて面白い。

「演劇2」は冒頭民主党の人々。撮影の2008年は民主党圧勝前夜で、公開は2012年10月の民主党政権下ですが、今日の時点では、それがあからさまに過去のことなのです。全体としては、劇団の経営、ということにシフトした軸になっています。

そのあとに国語教員のための研究授業の場。会話を成立させるワークショップのありかた、を丁寧に。このあたりのさまざまは新書「わかりあえないことから」に書かれていることとブレ無く同じようなことが、現場の臨場感をもって見られる楽しさ。

ロボット演劇も、もう一つの柱。スタニスラフスキーシステムに真っ向から挑む、「内面がないものが、内面があるように見せる」という雰囲気。そこには何か普遍的ななにかがあるから、たとえばフランス語がそうしゃべれるわけでは無い演出家がフランス人の演出が出来る、ということに繋がる気がするのです。

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2013.03.17

【芝居】「馬のリンゴ」ワワフラミンゴ

2013.3.16 19:00 [CoRich]

春の陽気も嬉しい神楽坂・フラスコで20日まで。自由席ですが、(観客による)見切れ席もあります。なるべく奥へ。65分。当日パンフによれば、2011年2月の続編だといいます。

吸血鬼が出没する。咬まれたくないから棒や灰皿を持ったりしている。あるいは、幻想の女の子も現れる。

ワワフラは基本的には女子たちの意味ありげな会話をバラバラの断片に繋いでいくのですが、その中でも今作は相当に難易度というか抽象度が高いのです。吸血鬼、幻想の女の子、ゴリラのこと、貰う賞のこと、パイナップルのことなど、バラバラでとりとめない単語が並んでいて、物語としてとらえられません。何カ所かに登場のするダンス(UNICLOCK的な、正直あそこまではキレがないけれど)も、どちらかというと洗練を優先した感じで、とらえようがない感じ。

二人の吸血鬼のうち、一人が連れて行かれて、残された一人が「私はダメってことー?」叫ぶシーンが結構好き。なんだろ、人からの評価で常に内省を続ける女子っぽさ。

あるいは、「友達いないって云ったじゃん」と詰問して、対して「いや、(それは)ロボット」と言い訳したりするのも、なんか女子の現場っぽさ。そういう意味では、「幻想の女の子」がほめることを要求して、四苦八苦して探しながらほめる(三人、というのも巧い感じ)ってのもなんか女子っぽい。

加藤真砂美はバナナには無かったような線が細いクールビューティな感じ。石井舞は凹んだ表情と声が好き。浅川千絵は馴染んではいるけれど、もっとはじける感じが観たい。北村恵はさすがの安定感、いたずらっぽかったり、怒ってみたり、凹んでみたり、この世界を作るのに欠かせないのです。

正直に言うと、点描されたそれぞれの場面、少しずつつながってたりはするけれど、物語がつながっている感じではないのは苦手なんですが、ワワフラミンゴを見続けてしまうのは、女子ばかりということなのか、あるいは場面の断片がおもしろく感じるからなのか、自分でもわかりかねながらも、通い続けてしまうのです。

縦に長い場所の長辺にずらりと椅子、少し出遅れて入った時に迷いつつも、真ん中の一列しかない3席を選んだアタシですが、結果的にはあまり巧い場所ではありませんでした。アクティングエリアは入り口近くのベンチ、カウンターのあたり、畳の上のベンチの三カ所に分散しますが、実際のところ一番よく見えるのは一番奥の畳の上に座るか、その上の椅子じゃないかしらん。畳の上の芝居が、もうすこし壁側に寄っていれば、とは思います。一応開演前に、乗り出すな、というアナウンスはあるんですが、注意ではどうにもならないレベルとも思うのです。見えないってのは、ストレスです、じっさい。

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【芝居】「連続おともだち事件」クロムモリブデン

2013.3.16 14:00 [CoRich]

クロムモリブデンの新作。20日までRED/THEATERのあと、大阪。110分。

男はレンタルフレンドのお試しだといって近づいてくる。断る男に友達いないだろうと云って、Twitterに自殺予告を投稿させる。それを読んで次々と人が。刑事を名乗る男、屋上から飛び降りる生徒を必死で止める校長先生、死にたい男、死なせたい女。レンタルフレンドはまるでネズミ講のよう、その被害者は対抗するために組織を作っている。そんなさまざまが起こる屋上に迫るのは。

友達のことと自殺、という中盤までの物語の骨格。それが巻き起こす波紋。それが起こると大変な目にあう学校や教えるの現場は今の感じ。あるいは金を払って友達を買うという一種の風俗やネズミ講的な怪しさ(間違ったことをしているという自覚はある)。 あるいは、そこに挟まって、昔は友達だったけれどフェードアウトした関係が、もう一度出会ってしまう気まずさも。これもまた「ともだち」のありかた。

船の甲板を縦に割ったような舞台、飛び上がるように登場し、消えていくポップで躍動する感じ。役者の負荷は相当だろうと思いますが、その中でハイヒールという幸田尚子がちょっとすごい。男の話を聞くのは「補完する関係」と拒絶する可愛らしさとクールビューティを地でいく美しさのダイナミックレンジ。クールビューティという意味ではちょっと似た感じのキャラではあるのだけれど、葛木英はもうすこしヤンキーっぽさが入るのが新鮮。ゆにばは全作から比べると格段に女の子でびっくりするのです。森下亮の人形っぽさ・悪巧み、あるいは友達・友達じゃないスイッチの落差。釣るための女を演じた渡邊とかげは、可愛らしさが全開という説得力。店長を演じた金沢涼恵は女将っぽさの貫禄も珍しい感じ。校長を演じた久保貫太郎は終幕にいたり笑顔だけれど、すべてを一身に背負うよう。

ネタバレ。

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2013.03.11

【芝居】「捨てる。」エビス駅前バープロデュース

2013.3.10 17:00 [CoRich]

エビス駅前バープロデュース・リブートと題しての再出発。演目は再演のようですがアタシは初見の3つの小さな物語をゆるやかに繋ぐ75分。17日までエビス駅前バー。チケット代とは別にドリンク一杯の注文(前より少しお値段上がったかしらん。前のままとのこと。失礼しました。ご指摘感謝。)が必須になっています。

小さなバー。若い女が待ち合わせとして訪れて開店。
結婚式帰りの三人。幼な馴染みのアラフォー女、一人は主婦だが奔放、一人はバリバリに働いているが縁遠い。ひとり若い男はその従姉弟で。
田舎からやってきた兄を連れて来た常連の女は漫画家。連載が切られたばかりのきっかけ、兄は地元に残る甲子園の星だったが妹に田舎に戻ってこいと説得に来たが、妹は頑として云うことを聞かない。
待ち合わせに、店のマスターがアニキと呼ぶ中年の男がやってくる。病気した去年に家族というもののありがたさがわかったという。女は男と初めて会うが云いたいことがある。

一人のバーテンに入れ替わり立ち替わりの客たち、というバーらしい芝居。 一本目、アラフォー女子二人、主婦だけれどまだ奔放vs憧れ立った文学少女が仕事をバリバリこなしてしかしまだ一人。互いにどこか隣の芝生という羨みを抱えているという構造なのだけれど、じつはその外側に鞘当てのような駆け引き。それに挟まれる若い男というのはちょっとおもしろい。田中千佳子はこういうやや不幸めを背負うと醸し出さされる色気と、思ったけれど役柄故か、はたまたドレス故か。主婦を演じた外山弥生は、薄倖が似合いすぎると言い続けたあまりに失礼なアタシですが、今作では、アラフォーになっても色ぼけするというある種反対方向に振り切っても説得力がある色香に迷いそうになります。

二本め、広島から上京している漫画家の妹は10年目。訪れた兄を連れてきてという具合の広島弁全開でコミカルな序盤。東京に居ることへの固執と、捨てられない実家と立場というせめぎ合いをタイトに見せる圧巻。岩手生まれの佐々木富貴子がしっかりと広島のことばを(いや、アタシにはそのリアルさはわからないのだけれど)自在に。目の前で自作を読まれて恥ずかしがるシーンが小さい身長とカウンターを自在に操るようでダイナミックな効果も生んでいてちょっとおもしろい。兄を演じた山崎雅志は常連らしい安心感。

三本め、 女を演じた片岡あづさは可愛らしく、しかし真っ直ぐな気持ちが見えるような目力。待ち合わせた男を演じた岡見文克はあからさまにバブル世代な造型で、枯れ始めている雰囲気もいい。
この店で一番高い酒として話にでるマッカランの50年、ぐぐってみれば確かに稀少品で、それがこの店にというのはちょっとやりすぎな気もしつつ。対比として出される一杯800円のラフロイグ、それだって十分にちゃんとした酒。あの緑色の瓶もラベルもが結構好きだったりするので(まあ、やすい酒、という対比だけれど)ちょっと嬉しい。

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【芝居】「秘を以て成立とす」KAKUTA

2013.3.10 14:00 [CoRich]

10日までシアタートラム。ほぼ一年ぶりのKAKUTA本公演。実は芝居ではよく見かける題材を扱いながらも家族を巡る秘密の物語として見応えのある115分。

自宅と接している小さなクリニック。医療事故と云われ、近所から抗議のデモが連日行われている。医者は体調がやっと調子に乗って久しぶりに診療を再開した。家には乱暴者の大工だという男が現れてデモの人々に殴りかかったり、優秀な医者が現れて仕事を軌道に乗せていく。タウン誌の記者は何かをかぎつけてこの家にやってくるし、公園で鳩と会話してるような近所でも評判な女も恋心からこの家に居ついてしまう。

ネタバレかも

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【芝居】「虚言の城の王子」空想組曲

2013.3.9 18:00 [CoRich]

10日まで吉祥寺シアター。110分。

図書館で知り合った男女、これはまさかの偶然。
病室のベッドに横たわる女、その傍らで物語を書く男。
図書館に働く女、読み聞かせの練習をしている。同僚の女は大学生で迎えにくる恋人は医者になろうと勉強しているが、勉強を理由に女の金に手を出している。
親子のような男女、泥棒に入った家で取るものが見つからず、一冊の本を持ち出すことにする。
物語。謎の城には王子様、執事やメイドが王子を捜すのは、絶望してる子を入れていいか確認するためだった。

眠ったきりの女の目覚めを期待する男の話。白雪姫を根底のモチーフとしながら、その男が、もう目覚めないだろうという半ばあきらめる気持ちを絶望についての物語として書き続けているという形で描きます。

絶望した子供を受け入れる城の中の住人たちもまた、(おそらくは現実の)それぞれの絶望(したい気持ち)を抱えていいます。その城の中央で眠り続けているのは、現実世界で目を覚まさない女。

何に絶望を感じるか、それを何で埋めていくのかということは人それぞれだと思うのだけれど、芝居の中で繰り返し使うコトバとして、この複数のシチュエーションを絶望、と括るべきなのかはいまひとつぴんとこない感じがします。大学生カップルの女が感じているのは絶望と云うよりは憤りや後悔というコトバのほうがアタシにはぴったりくるし、子供を亡くした親が感じているのは絶望というよりは悲しさだったり想いだったり。両親のいない子供が感じているのは寂しさや不安、というほうが腑に落ちると思うのです。

感情が何にせよ、そういう(マイナスな)気持ちを「書くこと」でしか埋められない、というのはおそらくは作家にとって偽らざる気持ちなのでしょう。アタシ自身がほんとうにそれに寄り添えるわけではないけれど、そうし続けるしかない、というのは(作家の云う)「絶望」の中を生き抜いていくということ、なのだなと思うのです。

正直に言えば、小劇場に慣れたアタシには、劇場が大きいこともあって、何人か投入されたイケメン俳優たちが(特に若い男にはまったく興味のないアタシには)キャラクタはともかく、役者として区別がつかない感じで、それがそれぞれ二役持っていたりすると、誰が誰やら、というのはアタシのせいなのだけど、物語の幹を担うだけに惜しい。

本を読む女を演じた大森美紀子は、さすがの繊細さ。アタシの友人が云う「解像度の高い」芝居がこの規模の劇場の中では際だちます。もっとも 老化防止とか、更年期障害とか、物語の必然がない割に笑いにさえほとんど結びつかない(笑わせるつもりなら、浴びせる側に相当に技術が必要だと思います)コトバを浴びせるのは、あまり上品な作り方ではない気がします。

父親を演じた中田顕史郎は、この劇団の常連の俳優ですが、今作では支える側をしっかり。泥棒の親子、という設定がなんか泣かせます。その「子供」を演じた小野川晶は子供の雰囲気が実にあっています。執事を演じた鶴町憲とメイドを演じた、こいけけいこは全体の中ではコミカルパートをしっかりと支えていますが、二人のキスシーンが唐突でちょっといい。女子大生を演じた上田理恵は、おそらく初めて拝見した気がしますが、ダメ男に言い出せず、思い悩みため込んでしまってからの爆発、と城の住人としての明るさを優先した造型を行き来するというダイナミックレンジがしっかり。眠り続ける女を演じた川田希、序盤の恋に落ちるまでのコミカルがちょっと好きになってしまいそうなぐらいにチャーミングでいいシーン。つるされた白い板を図書館の書棚の一冊と見立てるのは巧い見せ方。

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【芝居】「今、出来る、精一杯。」月刊「根本宗子」

2013.3.9 14:00 [CoRich]

短編上演を繰り返してきて、気がつけば本公演は昨年五月以来。がっつり濃密な135分。 12日まで、駅前劇場。

スーパーの事務室。傍若無人な振る舞いをするアルバイトの女は同僚の若い女を泣かせたりする。店長は泣いている女の恋人だが泣かせた女の元恋人でもあって強く注意することができない。それを苦々しく不潔だと思う女のアルバイト、誰にでも優しいバイトリーダー、軽い感じでモテる男、その恋人、それに想いを寄せる男は、中学の頃に友達を怪我させてからずっと口数が少ない。店には今日も、車いすでやってきて弁当を寄越せという女がやってくる。
バイトも長く続かない男はずっと家にいて、彼女に借りた金で生活している。彼女はどこまでも優しくて、愚痴でもなんでも聞いてくれていて。

依存する人々、働けない男はそれを優しく包み込む女に支えられ、依存していて。あるいは元の恋人のセックスに依存していて傍若無人になったり。拘りどころがバラバラな人々、それでも生きていかねばならないという人々。

たとえば、アパートに住む男。ほぼニートで文句を言っては働かないし、女の稼ぎで暮らしているどころか、弱い自分をひたすらに受け入れ慰めて貰っているし、女は惚れた弱みかどこまでも優しく包み込むように支えているというバランス。 たとえば、傍若無人に振る舞う女にいじめられている恋人を助けることすらできない店長。たとえば、惚れた腫れたなカップルの女にほのかな恋心を抱く気弱な男。それ以外だって、潔癖だったり、八方美人だったり、人との距離がヘンだったり、毎日店に言いがかりをつけに来たりと、部分部分はどこかにいそうな感じではあっても、デフォルメされ、あそことここがリンクして、という具合にがんじがらめに編み上げる世界は、さながら動物園のよう。

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2013.03.03

【芝居】「愛して紅」劇団†勇壮淑女

2013.3.3 14:00 [CoRich]

散歩道楽の太田善也の作演で、いい歳しても特攻服をキメた女たちの物語、115分。3日までザ・ポケット。

レディス・武流怒愚にからまれていたお嬢様風の女を助けたのは、同じくレディスで抗争しているチーム紅の総長だった。助けられた女は、母親のしいたレールの上だけを歩んできたが、自分の力で決めることに憧れ、チーム紅へ入ることを決める。
そのころ、街の片隅で暗躍を始めていたのは、「愛」を全面否定し、そんなアテにならないものをこの世から根絶しようとする一味だった。

アタシは初めて拝見します。 二つのレディスチームの抗争を枠組みとして、いい歳して特攻服、という出落ち感めいっぱいの見た目とは裏腹に、人を信頼すること、(広い意味で)好きでいることの大切さを丁寧に描く太田節。時にミュージカル風にダンスが4つも入っていたりして、女性ばかりのキャストもあいまって見た目にも華やか。

ミュージカル風味があって二つのチームの抗争と聞くと、セットの感じもどこかウエストサイドストーリーを思わせますが、作家はそこから一歩踏み込んで、愛こそが最強、ということを前提にはせず、それが揺らぐ瞬間に付け入る(見た目にも存在も)ダークサイドな第三の勢力を物語に組み込んで、愛そのものの存在を強く浮かび上がらせるようになっています。

主人公・チーム紅の総長を演じた江間直子は、キリっとした目線が美しいクールビューティなのだけど、それを(劇中にも語られる)日本土着なヤンキー特攻服というある種のダサさを加えて造型することでさらに魅力的に。ハーフという設定の構成員を演じた斎藤久美子は振り付けにも名前があってダンスのキレが印象的。奈賀毬子は明らかにファンタジーの領域の悪役だけれど、ダークサイドに引き込む強さを腕っ節ではなくて、膨大な台詞を畳みかけることで成立させる役をしっかりと。その手下を演じた鈴木美園は天然キャラかと思わせて、かわいい顔して冷徹の凄み。

ネタバレ

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【芝居】「1/3の小さな反逆」渡辺源四郎商店若葉支店

2013.3.2 19:30 [CoRich]

渡辺源四郎商店の若手のみで、普段の作演(畑澤聖悟・工藤千夏)が口を出さないという企画の三つの短編。それぞれ別の作家と、別の演出家という趣向の90分。3日までアトリエ・グリーンパーク。

フィリピンパブで働く少女、客である「社長さん」と出会い恋に落ちるが彼には家庭がある。意を決して想いを伝えるが、男は妻の妊娠を告げ「哀・哀しきフィリピーナ」(作・高坂明生/演出・柿崎彩香)
学芸会で王子役をやりたかったのに回ってきたのは「木」の役だった悔しさに溢れる少年。現れたのは明らかに不審な男。自らを「木の養成」と名乗り、木のすばらしさを伝えたいのだという。ある日、凶悪犯が逃げたと、刑事が家にやってくる。「ぼくの妖精さん」(作・工藤良平/演出・三上晴佳)
小料理屋の宴会に遅れてやってきた男は、年末の忙しい店の手伝いにやってきた若い女と初めて出会う。妻子があるにも関わらず、恋に落ち、女の故郷に戻り二人暮らそうとする「懺悔」(作・宮越昭司/演出・吉田唯)

「哀~」は男二人でフィリピーナと客の男、二人とも男装で女役だけは大きなイヤリングな出落ち感満載で登場。あなたことが好きだから、奥さんが居たって、このままだって私は幸せ、という一方的に男を想ってくれる女。いっぽうの男だって、今日はぼんやりしていて、妊娠した妻は家を出ていってしまった、それは借金してまで店に通い詰めてしまったからだし、実は自分は社長でもなんでもないとの告白。物語は哀しい結末で分かれてしまうのだけれど、それでもその人を想い続けていた時間にまた想いを馳せる女のラストシーンが美しくすら見えてしまうのです。
新人だという二人、社長を演じた小舘史もいい味わいだけれど、佐藤宏之は出落ちかとおもえば終幕に至り実に可愛らしいのです。演出した柿崎彩香は当日パンフによれば、自分だけでは演出できなかった、みんなで、ということを云うけれど、終演後のトークショーではそれでも、最後に決めだのは自分だったという役割をきっちり。

「~妖精さん」もまた、子供を演じた工藤良平の出落ち感がハンパなく、しかしきっちりと舞台を引っ張りながらの母子の話。母を演じた工藤由佳子の白いエプロン姿は、いつ怖い役に豹変するのかとびくびくしてしまうのは、いろいろ( 1, 2, 3、意味は全く違うけれど4)見ているゆえの特権(笑)。もちろんそんなことはなくて、子供を思う母の気持ちが存分に。
終演後のトークショーでこの日初めて観たという店主・畑澤聖悟によれば母子家庭の男の子が木の役だということも、男は(大黒柱という意味の)木で、その欠落の話で、男の子がその柱になる成長の話と読み解いたとのこと。なるほど。
全体に漫画のようにコミカルを意識して演出したという三上晴佳はこの人数、しかも強力ではあるけれど飛び道具ばかりのような役者陣で芝居をまとめあげるのです。
ボスを演じた西後知春は予約の返信メールに署名があったりして制作専任かと思っていればクールビューティをきっちり。妖精を演じた葛西大志は人情に厚い造型が印象的。

「懺悔」は80かという年寄りがこういう色っぽい話を今、改めて描くということを面白いと感じるかどうかが分かれ目だと思うのです。年寄りの話は、それが(少なくとも彼らにとっての)現実だから聴いてしまう、という感じ。全体に淡々としていて演出・吉田唯は相当苦労したと想像しますが、昔現在の老人がぽつりぽつりと昔話をするという構成が効を奏して、厚みが増しています。歌が挟まるのもちょっと歌劇な雰囲気があって楽しい。 女を演じた秋庭里美は現代的な顔立ちだけれど、和装や細かな所作で日清事変の時代に説得力があるのです。

正直にいえば、物語が驚きに溢れているという感じではありませんし、役者の力量も揃ってはいなくて、ナベゲンの名を冠した公演としては決して完成度が高いわけではありません。トークショーで店主が語るのは、自分が前の劇団(弘前劇場)で初めて作演 (1これかなぁ。, 2, 3) で公演を打ったときのことから始まり、たとえば自分が明日刺されて死んでしまったとしても、この場やこの人々が(ナベゲンという名前ではないにしても)芝居を続けていけるようにしたいという想いなのです。たとえば会社組織の管理職ならば、危機管理としてその代わりを誰が行うのかを考えて周囲に相談しておくというのと同様のBCP(事業継続計画)の一種。東京ならばさまざまな団体に散って続けることもできるけれど、おそらくはナベゲンの一人勝ちだろう青森市で、この場を継続していくということの想いには共感するのです。(そういう意味で集団指導体制に近い形態に見える松本市の(市民芸術館以外の民間の)演劇のあり方とはずいぶん印象が違って見えたのも印象に残ります)

トークショーでは客入れが押したことを叱咤する店主もまた。雪の多い青森でも多いという今年の雪、港の横で本当に横殴りに吹雪の中での公演というのも、まさかの超満員ということもあって同情したい気持ちはあるけれど、それをきっちり叱る人が居る、というのも大切だなと思ったりするのです。

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【芝居】「円」箱庭円舞曲(focus#3)

2013.3.1 19:30 [CoRich]

箱庭円舞曲の企画公演。過去作に関連した小品10編をゆるやかに繋いで構成する115分。11日までこまばアゴラ劇場。客席が三つに分かれていますが、舞台上手側にあるベランダでの芝居があるので、中央か下手側のブロックがおすすめ。客入れ時間中のDJ mixが爆音で楽しいので、お好きな方は早めに。

みんなで踊り、多数決をしてみると、周りの様子をうかがいながらばらばらと「12人の凡庸な日本人」(Intro)
リストラを進める会社、首を切る社員に宣告する役割を担う人事室のメンバーたち。上への不満も抱えつつ、Track#1「みんな私のことが好きだった」(第七楽章「みんな私のことが好き」)
国会議事堂前、一時はあんなに盛り上がったけれど今はショボくなってきたデモを眺める男女、知った風にあれこれ云う男だが、もう女は帰りたいTrack#2「Arabian Spring Nights」(第十四楽章「とりあえず寝る女」)
予備校の講師控室、浪人を重ねて来た男がやっと合格した大学の名前があんまりといえばあんまりで迷っている。もっとも、大学全入時代の今に至ってそこにしか合格できないぐらいでチンカス君とまで云われてたりして、でもマドンナ先生は前向きに。Track#3「マドンナー先生」(第九楽章「大人なのにバカ」、第十五楽章「気付かない奴は最強」)
地域のイベントに出演しようと人を集めた男は武道館にまで上り詰める気満々だけれど、あからさまにみんなバラバラで、しかも周りの方がずっとちゃんと考えていて。Track#4「That's Entertainment!」(第十二楽章「メガネに騙された
女がぽつりぽつり。初恋の人はじつは遠い親戚で。Interlude「ほんとうの話」
アート支援のNPOをやめた元代表にどうしても云いたいことがあるアーティスト、周りは少々無責任に煽って。Track#5「珍しい恋人-miki mituoka rainbow mix」(第十六楽章「珍しい凡人」)
映画スタジオ控え室で向き合う原作者と監督。Track#6「今日も誰かのせいにする」(第十七楽章「いつも誰かのせいにする」)
映画スタジオでのリハーサル、若い俳優はやる気がまるっきりなくてグズグズで。Track#7「ほね☆すて(実写版)」(第十九楽章「否定されたくてする質問」)
背中を向けて寝ている男に、女が語りかける。男の気のない返事。Track#8「ほね☆すて(漫画版)」(第十三楽章「極めて美しいお世辞」)
アパートの一室、浮気をしていた夫を責める妻、謎めいた女が突然乱入してくるが。Track#9「世界の男と女の魔法」
出産は成功したものの、母親は亡くなった。夫は医者をせめている。Track#10「○○○」
火葬場ですれ違う人々、それぞれに見送る人がいて、関係ないようですこしつながっていたりしてExtra Track「人の終わり」

多くの断片は、今までの作品に関連していたりするようです。美容師だったり、バカだったり、気づかなかったりというキャラクタが短編な分だけもっと濃く出てくるのです。アタシは実際のところ、記憶力がざるなので、ほんとに部分的にしかマッチングしないのが残念無念。

ネタバレかも。

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【芝居】「借景芝居『パーマ屋さん』」うさぎ庵

2013.3.1 17:30 [CoRich]

渡辺源四郎商店傘下となった、工藤千夏・うさぎ庵の「借景芝居」は今月いっぱいで閉店となる美容院での45分。3日まで池ノ上・Claire(クレール)。ワンドリンク付き。

小さな美容室。客の女の仕上げが終わるころ。店長はかつて原宿でカリスマで、独立してここに店を構えて妻と長い間この店を育ててきたが、事故で怪我した右手が治らないと、半年経った今もハサミをもてずにいる。医者はすでに治っていると言っているようだ。

毎公演、客入れの間、客を演じる石橋亜希子は髪を洗われスタイリングされ(髪の毛ダメージ受けないかしら..心配)。ホンモノの美容師がキャストにいて、美容室という場所だから成立させられるまさに「借景」を存分に。安心して任せゆったりとした気持ちになる表情が時に色っぽく、時に幸せがこぼれるよう。美容院未経験なアタシには実はよくわからないけれど、こうして貰うために安くない費用と時間をかけるということは理解出来るのです(アタシだって床屋で髭を当たって貰う嬉しさあるしな)。

ネタバレかも。

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【芝居】「ギプス不動産」あひるなんちゃら

2013.3.1 15:00 [CoRich]

気楽に笑えるけれど、きっちり作り込まれてるあひるなんちゃらの新作70分。3日まで駅前劇場。新たな試みとして毎回の公演の音声を収録してその場でMP3ファイル販売(500円)。Twitterやブログに書き込むなら申し出ればバッチを貰えるというのも嬉しい。

病院の喫茶室らしい場所。入院患者の男がどうにも気になる「ギプス不動産」なる謎。見舞いにくる友達や勤務先の人、医者、入院患者など。

一人をずっと舞台に置いて、おそらくは数日にわたる会話の断片。ギプス不動産の謎、入院する原因になったこと、入院している間の会社のこと、医者との会話、うざったい会話。

この週末、どうにも不足するコマに思いあまって有休を使ったアタシには、「金曜だよ、休めば三連休だよ」の気持ちにうなずいたり。あるいは入院中に気になる会社のこと、空回りするやる気なんてのは会社員ぽい感じではあるのです。そういう断片を盛り込みつつも、ありそうな会話を繋げていきます。大きな物語とか感動とは違うけれど、小さな物語に溢れている日常ってものが見えてくるよなぁ、って思うのです。毎回ですが。

正直に云えば今まで見続けてきた(が、今回は出演していない)役者数人が見え隠れしちゃうような感じがしたりはするのだけれど、実は役者のキャラクタではなく、役のキャラクタ、つまり人間のキャラクタを類型化してるのだな、と思うのです。よく云われるように、彼らは、実はユルく見えて、役者や演出の力量がハンパないから成立している(実は、作る側に立ったことのないアタシにはその技術的な凄さは、実感としてはよくわからないのですが)ので誰でもどこでも成立するわけではないとはおもうのだけれど、役者のキャラクタに頼ったものではない、というポータビリティがあるのだよな、と再確認するのです。もちろん、そこには方法論とかいろいろあるんでしょうけれど。

状況は正確に把握できるのに、会話のきっかけが明らかにおかしい女を演じた宮本奈津美が飛び道具なのに実にキュートで印象に残ります。姉を演じた伊達香苗が申し訳ないとおもいつつ、スイーツ(笑)を口にすると笑顔になるのがちょっと好き。にしても、公演期間が短いからできる技ではあるのだけれど。妹を演じた三澤さきが首を傾げて「エロいことですか?」と訊いてくるシーンに喜んでしまうオヤジなアタシです。三瓶大介は前々回に続いて抑えた(しかし頭おかしい)役が安定しているのがいいなと思うのです。

おそらく芝居では初めて目にする、「ライブ録音MP3販売」。楽曲がオリジナルだから成立させられるというのも、彼らの強み。ファイルに500円という値段は微妙な線ではあるのだけれど、帰宅の途中、電車で立っていたってその気持ちを反芻したままもって帰れるのはとてもいいなと思うのです。マイクの仕込まれた位置ゆえか、机に腕をたたきつけるシーンでマイクが飽和してしまうのはご愛敬。ビデオが撮れるんだから、実はカメラと同じような位置にマイクを置いたって大丈夫だと思うのです。MP3のIDタグつけておいてくれると嬉しいんだけどなぁとか、購入者のiPhoneにその場でMP3を送り込む安全な方法がないのはもう少し研究の余地ありではあるのですが、会話や物語の面白さで勝負する劇団なら、ぜひともやってほしいよなぁと思うのです。(DVDから音声だけ抜き出すって手もあるんですが、リッピング違法な昨今、今更イヤホンジャックからってのも、ねぇ。)

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