【芝居】「1/3の小さな反逆」渡辺源四郎商店若葉支店
2013.3.2 19:30 [CoRich]
渡辺源四郎商店の若手のみで、普段の作演(畑澤聖悟・工藤千夏)が口を出さないという企画の三つの短編。それぞれ別の作家と、別の演出家という趣向の90分。3日までアトリエ・グリーンパーク。
フィリピンパブで働く少女、客である「社長さん」と出会い恋に落ちるが彼には家庭がある。意を決して想いを伝えるが、男は妻の妊娠を告げ「哀・哀しきフィリピーナ」(作・高坂明生/演出・柿崎彩香)
学芸会で王子役をやりたかったのに回ってきたのは「木」の役だった悔しさに溢れる少年。現れたのは明らかに不審な男。自らを「木の養成」と名乗り、木のすばらしさを伝えたいのだという。ある日、凶悪犯が逃げたと、刑事が家にやってくる。「ぼくの妖精さん」(作・工藤良平/演出・三上晴佳)
小料理屋の宴会に遅れてやってきた男は、年末の忙しい店の手伝いにやってきた若い女と初めて出会う。妻子があるにも関わらず、恋に落ち、女の故郷に戻り二人暮らそうとする「懺悔」(作・宮越昭司/演出・吉田唯)
「哀~」は男二人でフィリピーナと客の男、二人とも男装で女役だけは大きなイヤリングな出落ち感満載で登場。あなたことが好きだから、奥さんが居たって、このままだって私は幸せ、という一方的に男を想ってくれる女。いっぽうの男だって、今日はぼんやりしていて、妊娠した妻は家を出ていってしまった、それは借金してまで店に通い詰めてしまったからだし、実は自分は社長でもなんでもないとの告白。物語は哀しい結末で分かれてしまうのだけれど、それでもその人を想い続けていた時間にまた想いを馳せる女のラストシーンが美しくすら見えてしまうのです。
新人だという二人、社長を演じた小舘史もいい味わいだけれど、佐藤宏之は出落ちかとおもえば終幕に至り実に可愛らしいのです。演出した柿崎彩香は当日パンフによれば、自分だけでは演出できなかった、みんなで、ということを云うけれど、終演後のトークショーではそれでも、最後に決めだのは自分だったという役割をきっちり。
「~妖精さん」もまた、子供を演じた工藤良平の出落ち感がハンパなく、しかしきっちりと舞台を引っ張りながらの母子の話。母を演じた工藤由佳子の白いエプロン姿は、いつ怖い役に豹変するのかとびくびくしてしまうのは、いろいろ(
1,
2,
3、意味は全く違うけれど4)見ているゆえの特権(笑)。もちろんそんなことはなくて、子供を思う母の気持ちが存分に。
終演後のトークショーでこの日初めて観たという店主・畑澤聖悟によれば母子家庭の男の子が木の役だということも、男は(大黒柱という意味の)木で、その欠落の話で、男の子がその柱になる成長の話と読み解いたとのこと。なるほど。
全体に漫画のようにコミカルを意識して演出したという三上晴佳はこの人数、しかも強力ではあるけれど飛び道具ばかりのような役者陣で芝居をまとめあげるのです。
ボスを演じた西後知春は予約の返信メールに署名があったりして制作専任かと思っていればクールビューティをきっちり。妖精を演じた葛西大志は人情に厚い造型が印象的。
「懺悔」は80かという年寄りがこういう色っぽい話を今、改めて描くということを面白いと感じるかどうかが分かれ目だと思うのです。年寄りの話は、それが(少なくとも彼らにとっての)現実だから聴いてしまう、という感じ。全体に淡々としていて演出・吉田唯は相当苦労したと想像しますが、昔現在の老人がぽつりぽつりと昔話をするという構成が効を奏して、厚みが増しています。歌が挟まるのもちょっと歌劇な雰囲気があって楽しい。 女を演じた秋庭里美は現代的な顔立ちだけれど、和装や細かな所作で日清事変の時代に説得力があるのです。
正直にいえば、物語が驚きに溢れているという感じではありませんし、役者の力量も揃ってはいなくて、ナベゲンの名を冠した公演としては決して完成度が高いわけではありません。トークショーで店主が語るのは、自分が前の劇団(弘前劇場)で初めて作演 (1これかなぁ。, 2, 3) で公演を打ったときのことから始まり、たとえば自分が明日刺されて死んでしまったとしても、この場やこの人々が(ナベゲンという名前ではないにしても)芝居を続けていけるようにしたいという想いなのです。たとえば会社組織の管理職ならば、危機管理としてその代わりを誰が行うのかを考えて周囲に相談しておくというのと同様のBCP(事業継続計画)の一種。東京ならばさまざまな団体に散って続けることもできるけれど、おそらくはナベゲンの一人勝ちだろう青森市で、この場を継続していくということの想いには共感するのです。(そういう意味で集団指導体制に近い形態に見える松本市の(市民芸術館以外の民間の)演劇のあり方とはずいぶん印象が違って見えたのも印象に残ります)
トークショーでは客入れが押したことを叱咤する店主もまた。雪の多い青森でも多いという今年の雪、港の横で本当に横殴りに吹雪の中での公演というのも、まさかの超満員ということもあって同情したい気持ちはあるけれど、それをきっちり叱る人が居る、というのも大切だなと思ったりするのです。
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