【芝居】「東京ノート」東京デスロック
2013.1.14 14:00 [CoRich]
青年団のマスターピースを、東京デスロックの東京REBIRTH公演として。140分。アタシの観た14日昼は、大雪に加えて観客の靴を脱がせるという客入れが災いして、20分押しの開演、終演後も混雑。(おかげで次の一本が観られず、まあ自業自得)、20日までこまばアゴラ劇場。四つあるベンチも含め、観客はどこに座ってもいいことになっています。
それぞれの生まれ、それぞれの上京を役者達が語りつつの東京ノート。
もふもふなファーの感じで覆われた劇場内部、大型モニタと鏡もあちこちに。東京ノートで象徴的なベンチシートも含め、観客はどこに座ってもいいし移動してもいいということになっています。アタシは友人の勧めもあって一番奥のベンチの音響ブース端、身体を回せるような場所。ほかの観客からも目立ってしまうけれど、確かに見やすいし、俳優の胸元ぐらいの高さから見上げるようなシーンも多くて結果的には正解だった気がします。
役者たちの生まれ、育ちから東京という距離感を描く冒頭部分。もちろん物語では兄弟たちは東京に出てきていて、次女だけが未婚のまま、親の面倒を見ながら地元に残っているということが物語の強い骨格になっていること、東京を離れていた劇団自身も強く意識しているのでしょう。いくつかある物語の柱、遠く離れた戦争とか、絵と父親とかはそれに比べるとコントラストが弱められているように感じる気がするのです。
もっとも、それはアタシ自身が東京を離れてから初めて観る東京ノート( 1, 2, 3) ということが作用しているのかもしれません。やはりアタシにとっては、東京ノートは長女と義妹の物語。見たいところだけを切り取って見ていくカメラオブスキュラ、二人のつながりのシーンは何度見ても泣いてしまいそうになるのです。それはこの演出においても変化がありません。
自分の生活の変化は、それでも見え方にずいぶん影を落としています。兄弟のだれよりも長女に近い気持ち、一人のままで、もう地方で一人で生きていくということも覚悟していてという感じは、いままでよりももっともっと強く感じているということはあるかもしれません。もっとも、親の面倒を、ということはアタシにはまだ現実のものではないし、むしろ親の面倒なら地方から戻ってこなければいけないわけですが。
どこに座ってもよく、移動してもいい観客の中で芝居をする、という演出の真意はわからないけれど、東京に出てきた(東京生まれだとしても)私たち自身の、あるいはすぐ隣で起きている人々の物語なのだ、ということに感じられます。セミパブリックな場所、という意識で書かれた(それは物語の構造として、さまざまな人のこと、あるいは私的なことが表出する場としての)戯曲を、もっともっと観客自身の物語に沈殿させる試みなのだろう、という風に思うのです。
正直にいえば、やはり青年団版の東京ノートは繰り返し見ていることもあって、印象は強烈で、義妹(=次男の妻)は山村崇子だし(とはいえ、大川潤子の目力の凄さは印象的)、学芸員は志賀廣太郎とひらたよーこだし、絵を寄付するのは辻美奈子だし、という風に重ねて見えてしまうのです。今回の演出ではビートが強く重なる音楽に一瞬でも違和感を感じてしまうとそれがノイズになってしまうというのも、記憶って面倒くさい。
そうなのです、音楽にしてもVJ風の映像にしても、確かに心地よい時間を作り出します。芝居というよりはインスタレーションに近い感じで、これは物語の強度ゆえに遊べる感じではあっても、物語に寄り添ったものかというとそうはなっていない感じがするのが、アタシの違和感なのです。初日の感想を見る限りの絶賛の嵐もよくわかるけれど、そうするには、この物語はアタシにとっては青年団版の印象が強すぎて、その細やかさがサンプリングによってすべて欠落したものになっているという気持ちが強いのです。
成田亜佑美は表情が実に豊かで、可愛らしく。座った席の間近での表情にぼおっとしてしまうのです。 松田弘子は、東京ノートの本当の要だということが今作をみても明らかに。その表情のひとつひとつが本当に印象に残ります。学芸員の長野海もちょこまかと動いて可愛らしいのです。内田淳子もまた学芸員ですが、こちらは演出が行き過ぎな感すこしばかり。(というか、なんだこのオールスター。)
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